アンドロイドは電気羊の夢を見るか? #8
情報を整理しておきたく、最初に補足説明をさせて頂きたい。
前稿記事投稿後、気づいた私は(あ・・・)と思ったのだが、記事を読んで下さった方の中に、こう思われた方もいらっしゃったのではないだろうか。
(イタリアわぃ?)と。
前稿記事冒頭で私は、“ドイツはEU初の原発ゼロを打ち出した国である”と書いた。出典は東洋経済ONLINE2022年1月21日の記事である。
一方、イタリアは既に稼働している原発はゼロである。
言うまでもなく、イタリアはEU加盟国だ。
そのEUについて、諸々のHPでほぼ、成立は“1993年11月のマーストリヒト条約の発効をもって成立した”とされている。
つまり、EUという“共同体において”原発ゼロを打ち出したのはドイツが初、という事になる。ややこしいのだが、一応付記しておきたい。
溝
その原発ゼロを打ち出したドイツ(2022年末までに現在も稼働している残りの3基を停止し、原発による発電をゼロにするというもの)と、国内全発電量の77%を原発で賄っているフランスは、EUタクソノミーで標榜してる“グリーンな経済活動”に、「カーボンニュートラルへの移行期に必要な経済活動」として原子力による発電を含めるか否かで、長い間、今も争っている。
#4の記事内で述べさせてもらったが、EC(欧州委員会)は、長期間検討中となっていた原子力発電と天然ガスを、2022年1月にEUタクソノミーのグリーンリストにのせる(補完的な委任規則に原子力発電、天然ガスを用いた経済活動を含める)方針である事を表明した。
そして同年7月6日欧州議会・本会議で同方針の反対決議を賛成278、反対328で否決(ややこしいな・・・)、一定条件下での原子力発電と天然ガスの経済活動を、持続可能な経済活動として位置付ける事がほぼ決定的となった。
※ECはEUの執行機関であり、ECの発布する委任規則(委任法=
DelegatedAct:DA)をEU加盟各国は遵守しなければならない。
ほぼ決定(この後もう一度決議があるが、数的にまずひっくり返る事はないと見られており、2023年1月より発効されるのはほぼ間違いないとされている)となったのだが、EU内の不協和音は解消されていない。
2国間の深い溝を迂回する、2国のうち一方の国いずれかの事情によっていつ断たれるかもわからない道筋をつけただけで、溝そのものはそのままだし、その溝に端を発する不協和音は現在も続いている。
2国とはドイツとフランス、溝とは原子力をEUタクソノミーが認めるグリーンな経済活動に含めるか否か、不協和音とはEU加盟国それぞれの電力事情の違いによるメリット・デメリットの差異によるものである。
原子力をグリーンな経済活動とは認めないドイツ、オーストリア、スペイン、ルクセンブルク、デンマーク、そのうちオーストリア、ルクセンブルク、デンマークは国内発電量の約8割を再生可能エネルギーに切り替え済みであり、原子力だけでなく、天然ガスも認めていない。
一方、フランス、オランダ、ポーランド、チェコスロバキア、ベルギー、ハンガリー、フィンランド、スウェーデンなど10か国は原子力をグリーンな経済活動と認めるよう、ECや議会に働きかけ続けてきた。
原子力依存度の高いフランス、フィンランド、スウェーデン、ルーマニア(他が約2割~3割に対して約7割~8割と中でもフランスが突出している)の他、ポーランドはロシアからの石炭に約6割以上依存しており、電力資源主軸の原子力発電への移行を急ぎたい。
この両陣営は、EUタクソノミー立ち上げの2018年頃から既に現在の旗色の下争いを続け、今に至ってもなお色を変えようという気配はない。
オーストリアとルクセンブルクは、今回、反対決議が否決されたこの制度が施行された場合、ECをEUの司法裁判所に提訴するという。
歴史的過ち
こうした中、ドイツだけは旗色が薄くなったり濃くなったりする面があったとみられる。以下アゴラ言論プラットフォーム2022年1月30日の記事より。
2021年末が一つの瀬戸際だったと同記事はいっている。
EUが暖房の無い冬を覚悟していた頃だ。
随分と手厳しいが、当時(2021年末頃)ドイツでは、原発稼働延長派と脱原発派の世論調査結果は双方約43%で拮抗していたという。
ドイツはEUで最も多くのCO2を排出していたと言われている。
要因は、自国で大量に採掘される褐炭(石炭の一種、褐色で石炭より質は劣る)を利用した火力発電で、褐炭と石炭合わせた23.4%という全発電量における割合は、EUの中ではポーランドに次いで多かった。
前メルケル政権は、原子力と同時に褐炭・石炭もやめると宣言した。
2020年1月16日には、遅くとも2038年までに脱石炭火力を実現する計画について、石炭を産出する4つの州政府と合意に達したと発表している。
褐炭と石炭の分は天然ガスに置き換えざるをえない。
2020年ドイツ国内全発電量の資源割合で16%だった天然ガスは、翌2021年には約40%にもなった。
ガス資源が少ないドイツは天然ガス調達をロシア一国に依存するしかない。
丁度ノルドストリーム2が建設中で、完成の目途が立った頃だ。
前稿#7で、ドイツのロベルト・ハーベック副首相・経済・気候保護担当相が、2022年3月オンラインで開かれたG7エネルギー担当相会議で、天然ガスをロシア一国に依存するようになった事について、ウクライナのゲルマン・ガルシェンコエネルギー担当相に言ったという、「歴史的過ちだった」とは、この時の判断の事を指して言ったのかも知れない。
ドイツの褐炭・石炭分を天然ガスへ、という判断が、2022年2月24日を決断させたかも知れないのだ。
そう考えると、ロベルト・ハーベック氏の「歴史的過ちだった」という言葉も頷ける。前稿記事でのこの言葉に対する私の指摘こそ的外れだった。
(知れば知るほど自分の無知が身に染みる・・・いや待てよ・・・まさか本心では侵攻OK、NoProblemとか思ってる?・・・まさかね・・・)
ともかく、原子力発電と天然ガスは、EUタクソノミーにおいて一定の条件の下でグリーンな経済活動に含まれる事となった。
そしてEU各国がまなじりをけっして争わなければならないほど、このEUのたくあんだか味噌汁だかは重要なもんなんか?と素朴な疑問が沸いたので調べたところ・・・。
非常に重要だった。
神 の 手
タクソノミーとは、英語で分類を意味する。
EUタクソノミーとは、EUが掲げる2050年までの気候中立の達成に、実質的に貢献する事業や経済活動の基準を明確化する事で、「グリーン」な投資を促進する事を目指すものである、との事。
約500ページにも及ぶ世界初のグリーンリストにリスト化される事で、グリーン・ディールを推進するプロジェクトの資金調達の際の、投資家の判断基準が明確化される、という事らしい。
タクソノミー自体はいかなる投資活動を禁止するものではなく、リストに排他的性質もなく内容や基準値などは今後も継続して見直されていくという。
日経新聞の定義によると、
「EUが定めた環境に配慮した経済活動である事を認定する基準であり、パリ協定とSDGsを達成する為、環境的に持続可能な投資を促す事が狙いで、企業や投資家にタクソノミーに適合する事業や投資割合の開示を求め、グリーンな事業に向かいやすくする」
ものだとの事。
罰則などはないという事で、要は事業に対して“グリーンな経済活動ですよ”というEUからのお墨付きが与えられるという事だ。
ISOの強力版みたいなものか?と個人的に感じるが、キモは投資を集める為のものという所で、企業にとっては“お墨付き”があれば資金を調達しやすくなる。
つまりどうやらこれはEUの“環境ビジネス”における主軸となるもののようだ。環境ビジネス、=EUグリーンディールである。
以下、+IDEAS FOR GOOD/EUタクソノミーとは、によると。
EC(欧州委員会)が2019年末に発表した欧州グリーンディールの目的は、2050年までのカーボンニュートラル達成だが、それには2030年までにおよそ1兆ユーロ(120兆円)の資金が必要になり、これらを公的機関だけで賄う事は難しい。
民間企業の資金を活用するとしても、投資したお金が実際にグリーンなプロジェクトに使われるかわからないので、透明性の高い情報を投資家に提供し、併せてグリーンウォッシュを排除する事がEUタクソノミーの役割である、という。
つまり、欧州グリーンディール達成に必要な資金を民間から得る為の枠組みであるという事だろう
京都大学大学院経済学研究科特任教授の加藤修一氏は、再生可能エネルギー経済学講座の中で、EUタクソノミーについてこう言われている。
次回、EUタクソノミーについて掘り下げてみたい。