ICUと眠れない私
まずはおさらいです。
ICU入室中~退室後に、「精神障害・認知機能障害・身体障害」を引き起こすと言われています。これらの症状は、集中治療後症候群(Post-intensive care syndrome: PICS (ピックス))と呼ばれています。
そして、これら3つの障害のうち「精神障害」は患者さんだけでなく、そのご家族も抱える可能性があります。
しかし、「精神障害」と言っても、様々な種類があります。
どんな症状なのか、イマイチ、パッとしないかもしれません。
そこで、今回は精神障害のうちのひとつ、
「不眠」に関してお話させてください。
中でも「ご家族の不眠」に関してお伝えしたいと思います。
あなたは眠れてる?
あなたは眠れていますか?
夜になかなか寝付けなかったり、
夜中に何度も目が覚めたり、
朝早くに目覚めて寝付けなくなってしまったり…。
そんな日々が積み重なり、
日中ウトウトしてしまう
なんだか頭がぼーっとする
集中力がなくなってしまう……
なんてことはありますか?
それ、もしかするとICUやPICSのせいかもしれないのです。
ご家族と不眠
ICUに入られた患者さんのご家族は、なぜ不眠になってしまうのでしょうか。
ご家族にとって、患者さんが大切な人であればあるほど、そんな大切な人がICUに入ってしまうとショックが大きいです。
「何かあったらどうしよう」と不安な気持ちになったり、恐怖心に襲われてしまいます。これが不眠に繋がります。
他にも、ICUを出た後の患者さんへの介護や、病院・保険等の様々な手続きに追われて、寝れなくなってしまうこともあります。
実は、ICUに入室した患者さんのご家族のうち、なんと半数以上*が不眠に悩まされるそうです。
実際に私もそうでした。気が気じゃなくて、眠れませんでした。日中も、何かあった時にすぐ動けるよう、なんだかずっと気持ちが張り詰めていました。
不眠は、放置していると更なる精神障害を抱えるリスクとなります。
それだけではなく、医師などの医療関係者さんから患者さんの病状説明を受ける時にも、眠気が邪魔して理解しにくくなってしまいます。
だからこそ、ご家族の睡眠状態は、とても重要なのです。
ご家族が自宅でできる不眠対策法とは?
不眠を解決するためには、どうしたら良いのでしょうか?
ここからは、特に「ご家族」に対する不眠対策をご紹介したいと思います。
最終的には、病院でお薬をもらって治療する…といった方法があると思いますが、ここでご紹介するのは薬を使わず、気軽に始められる不眠対策です!
科学的な効果が立証されていないものも含まれていますが、気休めだったとしても、まずは試してみることで眠れたらラッキーですよね!
香り編
コーヒーの香りを嗅ぐ
「眠れないのに、コーヒー⁉カフェイン⁉」と驚かれる方もいるかもしれません。しかし、コーヒーの香りが脳機能に与える効果に関する研究では、コーヒーの香りにより脳から出るα波量は多く、リラクセーション効果が示すといわれています。**
もちろん、香りを嗅ぐだけです!コーヒー好きの方なら飲みたくなる気持ちもわかりますが、カフェインで眠れなくならないように、飲むのは明日の朝にしましょう!(笑)
お香やアロマを焚く
特に、草木由来の香りとして鎮静効果を有するラベンダー1)、白檀 2)、針葉樹由来の香気成分セドロール 3)は睡眠改善効果が報告されています。***
ちなみに私は、白檀が好きです!逆に、ラベンダーの香りは苦手です…。
苦手な香りを嗅いでと言われても、正直リラックスはできないと思います。
自分好みの香りを選んで、少しでもリラックスすることが、不眠対策には大切なのかもしれません。
玉ねぎを寝床の横に置く
昔、とある病院で聞いたことがある、不眠対策の方法ですが、
玉ねぎに含まれる「硫化アリル」が空気中に漂うことで、鎮静効果や不眠効果があるそうです。
玉ねぎの横で寝てみるのも、いいかもしれませんね。
食べ物編
メラトニンが多く含まれる食材を食べる
メラトニンは、睡眠ををコントロールする重要なホルモンのひとつです。
メラトニンは、ブドウ、きのこ、ピスタチオ、オートミール****、カイワレ大根などの食材に含まれています。
トリプトファンが多く含まれる食材を食べる
トリプトファンは体内で最終的にメラトニンを作ると言われています。
トリプトファンは、チーズ・ヨーグルトなどの乳製品や、バナナ、納豆、カツオなどに含まれています。
また、体内で生成するまでに時間がかかるので、トリプトファンは、夜よりも朝摂取する方がよいと言われています。
日光編
朝起きたら、カーテンを開けて光を浴びる
日中も日光を浴びる
日光を浴びることで、「セロトニン」が体内で分泌され、結果的にメラトニンの量が増え、睡眠促進につながります。
一番良いのは、外に出て、日の光を浴びながら散歩とか軽い運動をすることです。でも、どうしても外出の時間が取れない場合は、カーテンを開けて日光を浴びる習慣を取り入れるだけでも良いと思います。
他にも、熱すぎないお風呂に浸かるとか、ストレッチをするとか、ハーブティを飲むとか、色々な不眠対策があります。ここですべては紹介できないので割愛しますが、大切なのは、状況に応じて、できるものから、好きなものから始めてみることだと思います。
「こんな大変な時に、そんなゆったりしていられないよ!」
と思うかもかもしれません。しかし、これは、患者さんご本人とご家族がPICSを防ぐために、なくてはならない必要な「ゆったりtime」なのです。
最後に
不眠解決のために大切な第一歩は、まずは自分自身が眠れている状態かどうかを知ることだと思います!
そして、ここで紹介したようないろんな不眠対策を試してみても、「やっぱり眠れない」と感じてしまう方も、もちろんいると思います。
そんな時は、遠慮せずに、病院の先生方にご相談してみましょう!お薬を処方してもらうのもひとつの手段です。
眠れなくても、決して焦ったり、自分を責めたりする必要はありません!
以上、PICSの精神障害のひとつ、不眠のご紹介でした!
引用元
*Altman MT, Knauert MP, Pisani MA : Sleep Disturbance after Hospitalization and Critial illness: A systematic Review. Ann Am Thorac Soc 14 (9): 1457-1468, 2017
**_pdf (jst.go.jp) 小長井ちづる,古賀良彦(グュエン・ヴァン・チュエン, 石川俊次編集):(2008),コーヒーの香りと脳機能,“コー ヒーの科学と機能”,p59-69,サイエンスフォーラム.
***
1)Hirokawa K, Nishimoto T, Taniguchi T. Effects of lavender aroma on sleep quality in healthy Japanese students. Perceptual and Motor Skills, 114: 111-122, 2012
2)田中順二,内村直尚,前田久雄,稲生宗司.香り (白檀)の睡眠構築及び生体リズムに対する影響. AROMA RESEARCH, 12: 355-360, 2002
3)山本由華吏,白川修一郎,永嶋義直,大須弘之, 東條聡,鈴木めぐみ,矢田幸博,鈴木敏幸.香気 成分セドロールが睡眠に及ぼす影響.日本生理人 類学会誌,8 : 69-73, 2003