覚悟−diary−

鬱の自覚

数ヶ月前、自分が鬱であることに気づいた。

過去の自分が大嫌いだった。

それが自分の性格だと思いこんでいたが、実はそれが精神的な病気であることに気づいてしまった。

病院に行くべきか悩んだが、薬を飲みたくないので、自力でなんとか克服することに決めた。

様々なメンタルワークを試みた。瞑想、ジャーナリング、アファメーション、自己啓発…。

毎日、日記に症状を記録した。スマホのボイスメモにも記録した。
過去の録音を聞いてみるとひどいものだった。

泣いたり喚いたり、かと思ったら突然冷静になっていたり前向きだったり。毎日別人だ。

鬱になりやすい人の特徴は、真面目で完璧主義者に多い。それは自分でも自覚していた。

凝り性なところがたる。それ故に思考が二極化する。

ゼロか100か。
成功か失敗か。

成功あるいはゼロ以外は、人生の失敗、くらい極端に捉えてしまう。
べつに30でも50でも70でもいいし、
成功と失敗の定義もよくわかってないのに、なぜかそう思ってしまう。

他人の評価を気にして、それを自分にそのまま当てはめてしまう傾向がある。

その結果、自分自身でダメ人間を製造する。何をしていても楽しくない。

話題が頭に入ってこない。
食事をしても美味しくない。

できない自分。
過去のどのあたりから間違えてしまったのか、遡ることで発見してしまう後悔、懺悔、自分の愚かさ、無知さ。

しまいには自分に向かって「お前なんて死ね」と暴言を吐きたくなる。

自分が鬱かもと気づいた時点で、記事や本でその症状を確認しておいた。

揺り戻しが来るのも予めわかっていた。
1番ヤバい時期には自分でも手をつけられないほどの闇の感情が押し寄せた。
それでも予備知識があった分だけ感情の底のほうで「来たな」と冷静に捉えることができた。

はっきり言って地獄を見た。
もっと言えば走馬灯も見た。
自分はもうダメなんだろう、と思った。

治りかけが怖いというのは本当だ。
急に現実が目の前にあるのを認識してしまうわけだから。

浦島太郎の気持ちがよくわかる。　夢から醒めないほう
がマシだった。
次にやらねばならないのは現実を受け入れる作業だ。

自力での治療はもちろん、そう簡単ではない。でもどうしても薬を飲むのはイヤで、セロトニンを増やすため日光を浴び、セントジョンズワートのサプリメントを飲み、睡眠をなるべくたっぷりとった。

辛い。
生きているのが辛い、なんで生きているのかわからない。
「五体満足に生まれて、少しトラウマがあったくらいで精神が弱すぎる、辛いのはお前だけじゃない」そう言いたい人の気持ちもわかっている（かつで健常だったころ自分もそう思っていた）でも心を病むというのは、そういう一般論など何も聞こえない。
毒にこそなれど、薬にならない。

言われなくてもわかっているから、さらに自分を追い詰める。

弱さを認めて強くなろうと努力を重ねた結果、心がいつの間にか蝕まれている。

「だからお前はもっとがんばれ」は励ましているつもりでも、当該者には「そうだよね…。」とさらに無理をさせ最終的には「がんばれないなら死ね」と本人の無意識の中で自動変換され、それがある時顕在化する。

ダメだ、消えてしまいたい…。

どうせ、人間生きて死ぬ。致死率は100％だ。ならいつでも同じじゃないのか、いま自分ひとりこの世から消えたって。

もちろん、自分を育ててくれた両親、姉弟、友人その他すべての人に感謝をしている。
心から愛している。わかっていながら、その上で消えたくなってしまうのだ。

辛いのは思い出そのものではなく（悪い思い出もあるけど良い思い出だってあるわけで）いまの現実そのものなのだ。

そう思いこんで頭から離れなくなる。それが鬱だ。

コロナ鬱

そこにコロナの恐怖だ。ただでさえ、この世から消えてしまいたくなるほどの不安の中で、現実と向き合おうと最大の努力をしている最中に、毎日のように流れてくるネガティブなニュース。

テレビを見るのが嫌になった。ネットかTwitterで必要な情報だけを拾う。しかしそう変わらないくらい、ナーバスなニュースが溢れている。

はじめは祈っていた。恐怖を和らげるために、1日でも早く終息するように。

終息宣言がでて、世界が元どおりになるように。

目覚めたら、今日こそいいニュースがあるかも知れない。
そう期待しても翌日にはより一層悪化している。

そのうちに、LINEのやりとりも、人との会話もそれ一色。
逃れることはできない。

それまで、どこか他国の出来事、他人事、と遠い感覚でいたものが、みるみると押し迫ってくる。

はっきり言えば、もう誰の目の前にもぶら下がっている事実。
誰の前にも襲いかかる恐怖。

もう、楽しい話しも振られてこない、楽しい話題に反応してあげることもできない。
それが、私の現実ではなくて、既に世界の現実になってしまっているのだ。

街の様子も変わってしまった。人通りは少なくなってはいるが、日々、個人になっていく。誰もがいつ保菌者になるかもしれない恐怖が、被害者にも加害者にもなる可能性を自覚させていきながら徐々に変貌していく。

自分ではもう、コントロールできない見えない恐怖。行動の制限による閉塞感、焦燥感、不安感。見えない未来。

死への怖れ。今月の初めには普通に生活していたのに、月末にはこの世にいないのかも知れない。

毎日、そんなニュースを見続けていると、いつの間にか死への覚悟が湧く。もう自分だけの話しではない。世界中が共有してしまったらしい。

現在の世界では現実そのものが「鬱状態」に入っているのだ。

覚悟してしまう他ない

人間、誰しも死ぬのは間違いのないことだ。それがいつなのかは誰にもわからないだけ。
普通に生きていればそんなことは考えない。しかし今回のウィルスの感染拡大は、それが意外にすぐかもしれないという自覚を人々が認識し始めてきたように思う。

もちろん、生存する確率のほうがよっぽど高いのだが、宝くじで1億円当たる確率より高い致死率だ。

もう自分ではコントロールできない大きな流れ。外出自粛、集団での接触禁止、気晴らしのイベントもほぼ皆無、実質上、言葉は悪いが引きこもりを余儀なくされている。日本ではまだある程度外出できるが海外では罰則になるという。
そのくらい脅威が目の前に来ているのだ。それでも終息の目処はつかない。

それなら怯えて暮らすより、もう覚悟を決めておいたほうが良さそうだ。そう思ったとき、元々の鬱症状が和らいできたのを自覚した。
消えてしまいたい、ではなく本当に消えるかもしれないのだから。

現実を直視した時に見えたのは、逆に世界そのものがナーバスだったという事実。不安や怖れを共有している事実。　　

もちろん、それで恐怖が消えるわけでも悲しみが消えるわけでもない。

辛さを共感している、という事実から元々の鬱の症状は少し軽くなっただけなのかもしれない。同時に世界的な鬱状態に共感してしまっている。

誰がいつ罹患するかわからない。自分かも知れないし大切な誰かかも知れない。もう、年配者だけとは限らなくなってきている。その恐怖は平等だ。

消えてしまいたいと言っていたくせに、覚悟をするのは遠い先だと思っていたがそろそろ決めて、これからの生き方そのものを見直してみたい、と思うようになった。

逆にこれ以上、心を病む人が増えないことを心から祈っている。

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