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その波形、、本当に右脚ブロックといえますか

 右脚ブロックは心疾患のない健常人でも見られる心電図の良性所見です。有病率はやや男性に多く、加齢とともに上昇します。一般的な有病率は2-3%と推測されており、80歳以上では10%以上と報告されています。

 右脚は主に右室に伝導を伝える脚であり、あまり分岐することなく主に右室の前乳頭筋に付着します。末端の一部は中隔や自由壁に付着します。右脚の伝導がブロックされると、特徴的な右脚ブロック波形が見られます。なぜなら心室の興奮伝播が、刺激伝導系を通って素早く左室が興奮した後、心室筋を通って右室にゆっくりと興奮が伝わってくるからです。よってQRS波の後半部分が幅広い波形になるという特徴があります。
 右脚は前半部分を左前下行枝が、末端部分は支配領域に応じて他の冠動脈から栄養されています。よって右脚ブロックになる原因としてはそれらの虚血によって引き起こされますし、他に右心系に負荷のかかる肺塞栓症や肺高血圧症などでも見られます。右脚ブロックに対する治療介入は不要ですが、原因となる疾患があるならばそれに対する治療介入を行う必要があります。また複数の脚ブロックを合併するようであれば、房室ブロックのリスクとなるため慎重なフォローが必要となります。

右脚ブロック


 右脚ブロックが起きると興奮の流れとしては、左室を急速に脱分極させた後にゆっくり右室を興奮させます。これをV1から見るとrsR’(あるいはrSR’、rsr’)になり、V6から見ると幅の広いS波が見られます。順に説明すると① 左脚を伝導した興奮はまず左室を素早く興奮させますので、V1から見ると離れていく方向(陰性)、V6から見ると向かってくる方向(陽性)に興奮します。② 次に右室に伝わるためにV1から見ると向かってくる方向、V6から見ると離れていく方向に興奮が伝播します。③ 右室にはゆっくり伝わるために幅の広いV1でのR’とV6でのS波が確認されます。

 また、脚ブロックによる2次性変化のために、前胸部誘導でのT波は陰性化します。このようなV1でのrsR’、V6での広いS波が見られる波形においてQRS幅が≧120msecのものを完全右脚ブロック、110~119msecのものを不完全右脚ブロックといいます。不完全右脚ブロックの場合R’の幅が20msec以内となります。またそれよりも幅が狭いQRSにおいてrsr’を認める場合には室上稜パターン(Crista supraventricularis pattern)の可能性があります。Crista supraventricularisとは、三尖弁と肺弁の間に存在する構造物であり、心室興奮が最後になる場所のため、健常人においても同部位の興奮遅延がこのような波形を生み出すことがあります。

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