心筋梗塞解説初級編・どこの血管が閉塞しているかが一瞬でわかるようになる方法
問1 59歳男性。朝から持続する胸痛にて受診時の心電図。
心筋梗塞部位として最も疑われるものを一つ選べ。
左冠動脈主幹部
左前下行枝
左回旋枝
右冠動脈
円錐枝
~解答解説~
正解:2
本症例ではV2-4でST上昇を認め、まずは前下行枝の急性冠症候群を疑います。Ⅰ、aVlでもわずかにST上昇しており、aVlには異常Q波を認めるため、対角枝も巻き込んでいるものと考えます。以上から左前下行枝の心筋梗塞を疑います。下壁誘導はミラーイメージでSTが下がっています。
~目で見る冠動脈~
虚血性心疾患について語る前に、冠動脈についてまとめておきましょう。冠動脈は心臓の周りを囲むように3本の枝があります。左冠動脈は主幹部から分岐して前下行枝と左回旋枝に分かれます。左前下行枝は右室と左室の間、左回旋枝は左房と左室の間を通っています。右冠動脈は右房と右室の間を通っています。ちなみに冠動脈にはアメリカの心臓学会によって番号が割り振られています。右冠動脈は♯1-4、左冠動脈主幹部が♯5、左前下行枝が♯6-10に、左回旋枝が♯11-15です。興味があったら覚えてください。番号は覚えなくてもいいです。ただし、1級レベルになると枝を近位梗塞か遠位梗塞かが問われるため、どんな枝がどのレベルで分岐するのかは覚えておく必要があります。上級編でやりますので、ここではおいておきます。
この図のように左手指3本で挟むように持ってください。これが冠動脈と心臓の関係です。手首側が基部、指先側が心尖部です。3本ある血管の中でも最も重要なのが、左前下行枝(人差し指)です。還流域が大きく、より近位部で閉塞すれば致死率が上がります。
~ST上昇の型~
STの上昇の仕方には主に3種類あります。上に凸のconvex型、水平に上昇するStraight horizontal型、下に凸のconcave型です。虚血によるST上昇はconvex型かStraight horizontal型になります。心膜炎や早期再分極によるST上昇はconcave型になります。
~虚血性心疾患の分類~
冠動脈の狭窄による血流低下が低下し、栄養や酸素が心筋に行き渡らなくなって心臓がダメージを受けたものを虚血性心疾患といいます。これの中に、安定狭心症、不安定狭心症、労作性狭心症、急性心筋梗塞、急性冠症候群、冠攣縮性狭心症など多様な病名が存在します。明確に説明できるでしょうか。心電図を早く読みたいという気持ちを抑えてまずは虚血性心疾患とは何たるかを正確に理解して、明日同僚に教えてあげましょう。きっと正確に説明できる人はほとんどいないはず。
と言いながらそう簡単に割り切れないところがあるのが、この病名のややこしいところです。まず一番大事なのは心筋が現在進行形でダメージを受けているかどうかです。ダメージを受けていれば心筋逸脱酵素が上がり、心筋梗塞という病名になります。STが上がればST上昇型心筋梗塞(STEMI)、STが上がっていなければ非ST上昇型心筋梗塞(non-STEMI)となります。
心筋がダメージを受けていなければつまりかかっている狭心症ということになります。症状の出る状態や成因によって呼ばれ方があるので、ここからは少しややこしくなっています。この中で危険なのが粥腫による狭窄です。粥腫は脂質の塊が薄皮一枚で血管内皮に張り付いている状態です。つまりとても不安定かつ、安静時でも症状が出ることがあって、いつ破裂して詰まってもおかしくないものです。これが不安定狭心症といわれるものです。上記の理由から不安定狭心症は非常に危険であり、心筋梗塞までは至っていないもののリスクが高いとのことで心筋梗塞と合わせて急性冠症候群(ACS)といわれています。一方で安定狭心症は一定の労作で再現性をもって惹起されますが、すぐに収まる状態です。主には動脈硬化による石灰化病変であることも多く、年月をかけてゆっくり進行します。最近は冠動脈疾患の薬物治療も進化してきており、抗血小板薬やスタチン、β遮断薬を上手に使うことで無理にカテーテル治療のリスクを負わずともコントロールできることもあります。
冠攣縮性狭心症は原因不明の冠動脈の攣縮による血流障害です。自律神経の関与が疑われており、自律神経が切り替わる朝や夜に多いとされています。また、喫煙はリスクとされています。狭窄の程度は個人差が大きく、狭心症で済めばST低下ですが、心筋梗塞であればST上昇することもあります。重症例の場合だと致死性不整脈を起こし、死に至ることもあります。
~虚血領域と支配血管~
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