心電図ってそもそも何?
心電図の基本
① 心電図のとり方
ⅰ)心電図とは
心電図(Electrocardiogram, ECG)は、心臓の電気的活動を記録し、その活動を波形として視覚化する検査です。心臓は電気的刺激により拍動を起こし、その電気的変化が体表に反映されます。この信号を電極で拾い、記録するのが心電図です。心臓のリズムや電気的異常を確認するための基本的かつ非常に重要な検査です。何より、造影剤や放射線などの体に負担を一切かけずに行える検査ですので、何回行っても問題はありません。
ⅱ)検査の準備
患者の準備
患者には、検査の目的と手順を簡単に説明し、リラックスした状態を保つようにします。心電図を正確に記録するためには、患者が動かないことが重要です。動きや筋肉の緊張は、記録される波形にノイズとして影響を与える可能性があります。検査は通常、仰向けに横たわった状態で行われます。ベッドや検査台に寝てもらい、腕や脚をリラックスさせます。女性の場合、胸部誘導を装着するために必要に応じて衣類を調整しますが、プライバシーに十分配慮します。
皮膚の準備
電極を正確に取り付けるために、皮膚との接触を良好にすることが重要です。肌に油分や汗があると電極の接触が不十分になり、正確な波形が記録できないため、アルコール綿で皮膚を清潔に拭き取ります。特に胸部の皮膚は丁寧に処理することが重要です。体毛が多い場合は、必要に応じて一部を剃毛することもあります。
電極の配置
標準的な12誘導心電図では、患者の体に10個の電極を配置し、それぞれが異なる部位の電気的信号を記録します。この配置を正確に行うことが、正しい波形を得るために非常に重要です。
肢誘導用電極の配置
肢誘導は、四肢に取り付けた4つの電極で記録されます。これにより、心臓の前額面(上下・左右方向)の電気的活動が測定されます。
右腕(RA):右前腕、または右肩
左腕(LA):左前腕、または左肩
右脚(RL):右足首、または右大腿部
左脚(LL):左足首、または左大腿部
ポイント:右脚の電極(RL)は基準電極として使用され、実際には波形には寄与しませんが、装着しないとノイズが増加するため、必ず取り付けます。
胸部誘導用電極の配置
胸部誘導は6つの電極で、心臓の水平面における電気的活動を捉えます。以下の部位に電極を取り付けます。
V1:胸骨右縁第4肋間
V2:胸骨左縁第4肋間
V3:V2とV4の中間点
V4:左鎖骨中線上の第5肋間
V5:左前腋窩線上でV4と同じ高さ
V6:左中腋窩線上でV4と同じ高さ
ポイント:V1からV6までの電極配置は、位置が少しでもずれると心電図波形に影響を及ぼすため、正確に配置することが求められます。
検査の実施
電極をすべて装着したら、心電図記録装置を作動させます。検査は通常10秒ほどで終了し、その間に12誘導すべての波形を同時に記録します。
フィルター設定
心電図装置にはノイズを除去するためのフィルター機能が備わっていますが、過度にフィルターをかけると波形が歪む可能性があるため、標準的な設定で行います。通常、筋電図(EMG)ノイズや交流ノイズを軽減するためのフィルターが自動的にかかります。
波形の確認
心電図が記録されたら、まず記録された波形が正確かどうかを確認します。波形が明瞭でない場合や、ノイズが多い場合は、電極の接触を再確認するか、患者に一度体を動かして再度リラックスしてもらいます。
終了後の処理
心電図記録が終了したら、電極を外し、患者に説明を行い終了となります。患者に特に不快感はなく、短時間で済むため、一般的には再検査や休息は不要です。
まとめ
・12誘導心電図検査は体に負担をかけない
・10個のパッチを正確に貼ることによって、多方向から心臓の電気の流れを表すことができる
② 肢誘導と胸部誘導とは(モニターやホルターも)
ⅰ)誘導とは
12誘導心電図は言葉の通り、12個の向きから心臓の興奮ベクトルを把握するために使われます。これには肢誘導(limb leads)と胸部誘導(precordial leads)の2つの大きなカテゴリが含まれ、それぞれが異なる方向からの心臓の電気的活動を測定します。
ⅱ)肢誘導とは
肢誘導は、四肢に取り付けた電極を使って、前額面(身体の上下および左右方向)で心臓の電気的活動を記録します。肢誘導には標準肢誘導と増幅誘導の2種類があり、それぞれ異なる組み合わせの電極で電気信号を捉えます。
標準肢誘導
標準肢誘導(bipolar limb leads)は、左右の腕と左脚に取り付けた電極を使用し、2つの電極間の電位差を測定します。これにより、3つの異なる方向から心臓を観察します。具体的には、以下の3つの誘導があります。
I誘導:左腕(LA)と右腕(RA)間の電位差。心臓を左右方向から見た視点を提供します。
II誘導:左脚(LL)と右腕(RA)間の電位差。心臓を斜め下方向から見た視点であり、P波やQRS波がよく見えることが多い誘導です。
III誘導:左脚(LL)と左腕(LA)間の電位差。心臓をやや左下方向から観察します。
増幅誘導
増幅肢誘導(augmented limb leads)は、標準肢誘導の信号を基に、体表面の3つの追加の方向から心臓の電気的活動を記録します。これらの誘導は単極(unipolar)誘導であり、1つの活性電極と複数の基準電極の組み合わせで電気信号を測定します。以下の3つの誘導があります。
aVR:右腕(RA)を基準に心臓を見た視点。通常、aVRは陰性の波形を示します。
aVL:左腕(LA)を基準にした視点。左心室の電気活動を反映しやすい誘導です。
aVF:左脚(LL)を基準にした視点。心臓の下部を観察するための誘導です。
これらの標準肢誘導と増幅肢誘導を合わせた6つの誘導は、心臓の前額面での電気的活動を包括的に捉えます。心臓の異常が、どの方向で顕著に現れるかを評価するのに役立ちます。
ⅲ)胸部誘導とは
胸部誘導は、胸部に直接装着された電極を使用し、水平面での心臓の電気的活動を記録します。これにより、前後および左右の方向から心臓の詳細な活動を評価することができます。6つの誘導があり、それぞれが心臓の異なる部位を評価します。
V1誘導:胸骨右縁第4肋間。右心室や心房中隔の活動を反映します。
V2誘導:胸骨左縁第4肋間。心房中隔や右心室の活動を評価します。
V3誘導:V2とV4の中間点に配置。心室中隔や左心室の前壁の活動を反映します。
V4誘導:左鎖骨中線上の第5肋間。左心室の前壁の活動を評価します。
V5誘導:左前腋窩線上でV4と同じ高さ。左心室の側壁を反映します。
V6誘導:左中腋窩線上でV4と同じ高さ。左心室の後側壁の活動を評価します。
これらの6つの胸部誘導は、心臓の前面と側面の活動を詳細に捉え、特に左心室や右心室の異常を見つける際に重要です。
ⅳ)肢誘導と胸部誘導の違い
肢誘導と胸部誘導は、心臓を異なる方向から観察するため、両方を組み合わせることで心臓の全体的な電気的活動をより詳細に評価することが可能です。肢誘導は前額面(上下、左右)の心臓の電気的活動を記録することが可能です。異常が体の前後よりも上下左右方向に現れる場合に有用。例えば下壁の心筋梗塞は心臓の下壁の虚血のため、下の誘導であるⅡ、Ⅲ、aVFでST上昇が見られます。胸部誘導は水平面(前後)の心臓の電気的活動を記録。特に左心室や右心室の前壁・後壁を評価する際に重要です。左右の心房も心室も実は前後の関係になっているため、起源推定するときに役に立ちます。例えば、右房の自由壁の心房期外収縮においてV1のP波は陰性になります。これは体の前面の誘導であるV1から見ると、右房自由壁の期外収縮の興奮伝播は離れていく方向になるためです。