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ケント束の部位を2stepで鑑別する

先に本記事のキモを書いておきます。言いたいことは下の2つだけです。これがわかれば、めちゃくちゃ簡単にWPW症候群におけるケント束の付着部位が鑑別できます。

WPW症候群とは

WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群は、心房と心室の間に異常な電気回路が存在することで発生する病気です。この異常な電気回路は「副伝導路」と呼ばれます。通常、心房から心室への電気信号は、刺激伝導系の一部である房室結節を通じてのみ伝わります。しかし、WPW症候群の患者では、副伝導路が存在するため、房室結節を介さずに心室へ興奮が伝わることが可能となります。
この副伝導路にはいくつかの種類がありますが、特に心房と心室を直接つなぐものを「ケント束」と呼び、このケント束を持つ状態がWPW症候群です。ケント束は、通常存在する房室結節とは異なり、生まれつき心房と心室をつなぐ異常な回路です。心房と心室の間には本来、房室弁という絶縁体があるため、心房から心室への信号伝達は房室結節を通じてしか行われませんが、ケント束が存在すると、この通常のルートを介さずに信号が伝達されます。
ケント束には、心房から心室への「順行伝導」と、心室から心房への「逆行伝導」の2つの伝導形式があります。順行伝導のみの副伝導路は通常見られず、多くの場合、逆行伝導のみか、あるいは両方向への伝導が可能です。順行伝導がある場合、房室結節を介さずに心室が興奮するため、心電図上に「デルタ波」と呼ばれる特徴的な波形が現れます。デルタ波が確認できるWPW症候群は「顕性WPW症候群」と呼ばれます。
一方、逆行伝導のみを持つケント束の場合、心房から心室への興奮伝導が行われないため、デルタ波は形成されません。このタイプを「潜在性WPW症候群」と呼びます。逆行伝導のみのケント束は、通常の12誘導心電図では発見が困難です。

デルタ波が形成される理由

デルタ波の本質は、ケント束による心室の早期興奮です。なので、早期興奮症候群などと呼ばれることもあります。通常であれば、P波→PQで基線に戻る→鋭い立ち上がりからQRSが形成されます。しかし、ケント束があると心室は本来あり得ないところから興奮します。しかもその局所に関しては房室結節を通った興奮よりも早く興奮します。なので、PQが短縮するのが一つのポイントです。さらにケント束を通って心室を興奮させた部分は刺激伝導系を通っていないため、wideな波形になります。ゆえにQRSの立ち上がりがなだらかになるというのは2つ目のポイントです。この2つが合わさってデルタ波を形成します。 

ケント束は、心房と心室をつなぐ異常な電気的回路であり、通常は房室弁輪に付着しています。房室弁には、右房と右室の間にある三尖弁と、左房と左室の間にある僧帽弁が含まれます。そしてこれらの間には中隔が存在します。ケント束がどこに付着しているかは、心電図上の波形やデルタ波の極性を分析することで推測することができます。
一般的な心臓の模式図では、心室は左右に並んで描かれますが、この配置ではケント束の付着部位を理解するのが難しい場合があります。実際の解剖学的配置では、右心系と左心系は前後に位置しており、前から三尖弁、中隔、僧帽弁輪の順に並んでいます。

ケント束の付着部位に応じて、WPW症候群はタイプA、タイプB、タイプCの3つに分類されます。僧帽弁輪に付着するものがWPW症候群タイプA、三尖弁輪に付着するものがWPW症候群タイプB、中隔に付着するものがWPW症候群タイプCと呼ばれます。これらのタイプを識別するには、まずV1誘導の波形を確認します。
タイプAではV1誘導でR波がS波よりも高くなり、タイプBではrS波形が見られ、タイプCではQS波形となります。通常、房室結節を経由した場合、V1誘導ではrS波形が現れますが、タイプAでは、V1から見て奥から向かってくる興奮が見られるため、R波が高くなります。

タイプBでは、若干向かってくる興奮があるものの、心室の興奮が手前から離れていくためrS波形が現れます。

タイプCでは、ケント束により中隔の興奮が飛ばされるため、本来現れるはずのr波が省略され、QS波形となります。


さらに、それぞれのタイプにおいてデルタ波の極性を確認することで、ケント束の付着位置がより詳細に特定できます。デルタ波はQRSの立ち上がりから20ミリ秒後の部分で判断し、デルタ波が上向きなら陽性、下向きなら陰性、変化がない場合や上下にぶれている場合はプラスマイナスと評価します。
次に、V1でタイプを確認したら、Ⅱ、Ⅲ、aVf誘導を確認します。これらの誘導は、体の下向きに陽性成分を示すもので、陽性であれば心室の興奮が上から下に伝わることを意味し、ケント束が弁輪の前壁側に付着していることを示します。逆に、これらの誘導が陰性であれば、心室の興奮が下から上に伝わることを示し、ケント束が弁輪の後壁側にあることを示唆します。Ⅱ、Ⅲ、aVfの波形がばらばらであれば、ケント束は弁輪の前後のいずれでもなく、中央付近にあることが考えられます。ここで重要なのは、弁輪の前後壁側が体の上下と対応していることです。体の前と前壁が混同されやすいので、これを理解しておくことが必要です。つまり、弁輪前壁といえば、弁輪の上の方だということです。

最後に、ケント束が後壁に存在する可能性がある場合は、Ⅱ誘導を確認します。もしⅡ誘導でQS波形が見られる場合、ケント束が心外膜側、特に冠静脈洞に存在することが考えられます。Ⅱ誘導は通常、心臓の興奮伝播に一致した誘導であり、全く陽性成分が見られない場合、通常のケント束による興奮では説明できないためです。

おまけ
デルタ波の付着部位の鑑別法はいくつか報告されています。そのどれも完璧に鑑別できるものではありませんが、2023年にEurpaeceからWPW鑑別法の最新のものが報告されています。3stepで鑑別でき、簡便でわかりやすく使いやすくなっています。。何より1st stepがV1でざっくり分けてしまおうというのがわかりやすくていいですね。個人的にはそれ以降はⅡ、Ⅲ、aVfの極性を見て前壁か後壁かそれ以外科の鑑別で十分だと、思ってしまっています。

なので私の方法は
1:V1でタイプをみる(僧帽弁or三尖弁or中隔)
2:Ⅱ、Ⅲ,aVfでざっくりの場所を見る(前壁or後壁or側壁)

の2stepです。

細かく知っておきたいという人は下の図と原著論文もご参照ください(Europace (2023) 25, 600–609)

Easy-WPW

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