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心電図読影秘伝の書・初

本記事を閲覧いただきありがとうございます。皆さん心電図の勉強をしていて、レベルアップを感じにくくなった経験はありませんか。
・お気に入りの本の解答を覚えてしまった
・波形の理屈はわかるけど、いざ問題になると解けない

こんな方は心電図の知識の積み上げ方が不安定なのです。
基礎、それも心電図波形の基礎ではなく、そもそもどの順に読むべきかがわかっていない。
わかっていないから、いつも読めるかどうかの丁半博打を打っているだけなのです。

そしてそのうちにモチベーションが下がって勉強しなくなる→、わからなくなる→困ってまた同じところを対症療法的に勉強する→モチベが・・・

そうなっているあなたへのバイブルとなるように本記事を執筆しております。

・まずはシンプルに読み方のポイントを10個に厳選!
どんな時でも使える読み型をマスター
・所見をもらさず集め、適切な鑑別から診断につなげる

中級者以上の方には少し物足りないかもしれませんので、心電図検定2級以上の方はたぶん購入不要です。

この読影術を身に付ければ、心電図勉強の最初の壁は突破したといっても過言ではありません。
ただし、本記事を読むだけでは不十分です。
知識は使って初めて自分のものになります。この10か条を頭に叩き込んで、明日からの心電図の勉強を加速させてください。

なるべくシンプルに解説しようと思っていましたが、どうしても盛りだくさんな内容になってしまって2万5千文字を超えてしまいました。
何なら目次だけでも覗いてみてくださいね。


目次

初めに

その1 ........................... まず!患者情報を聴取することから始めるべし

その2 ............. その心電図の在り方を問う(心拍数計算法、校正波)

その3 ...................................................... 木を見る前に森を見る(勉強法)

その4 ...…................ 忘れそうな所見は先に取っておく(軸、移行帯)

その5 ............................................... P波を制する者は世界を制す(起源)

その6 ............................................... PQに流れる刺激伝導系の重要性とは

その7 ..................................... 惑わされない、QRS波とのお付き合い方法

その8 .......................................................... QT異常に隠された心電図の秘密

その9 ............................................................... 変幻自在、十人十色のST変化

その10 .......................... 閉塞部位が透けて見える、至高のSTEMI読影術

まとめ

その1 まず!患者情報を聴取することから始めるべし

 えー。と思う人もいるかもしれません。心電図の本なのにまず心電図を見るなという教えです。これは実はとても大事で、心電図上級者ほど心電図以外から得られる所見を重要視します。例えば高度な徐脈の心電図の相談を受けたらあなたはどうしますか。これは洞不全なのか、はたまた房室ブロックなのか。それより先に聞くべきなのは意識はあるか、血圧は維持されているかです。これをおろそかにしてはいけません。

 逆もしかりです。心電図の相談を、医師や専門の先生に相談するときには「この心電図を見てください。」はイケてないコンサルトです。心電図を見せながらでも構わないので、「○○歳、女性。今朝からの胸痛があって救急搬送された人の心電図です。意識は清明ですが、

現在も胸痛の訴えがあります。」ここまで言ってもらえれば、状況は一瞬で理解できます。

 まずは年齢、性別、主訴はマストで必要でしょう。既往のない若年患者の胸痛と冠血管リスクが高い高齢の胸痛では鑑別すべき疾患が全然違います。

さらに意識、血圧、既往歴、過去の心電図まであれば、初期のコンサルト情報としてはほぼ完璧です。心拍数は心電図があれば確認できるとして血圧と意識の確認は緊急性を意味します。心室頻拍であれ上室頻拍であれ、循環動態を維持できないのであれば診断の前にまず除細動による治療を優先します。当然、以前の心電図と比較できれば診断の一助になるのは言うまでもありません。救急の現場では以前の心電図がないこともありますが、元々脚ブロックがあったり、陳旧性心筋梗塞があったり、先天性心疾患があったりすると診断が難しくなります。特に先天性心疾患は近年予後が改善しつつあり、一般医師であっても先天性心疾患に出会う機会も増えてきています。成人先天性心疾患とも言われるようになってきており、慢性期の右心負荷、うっ血性心不全、上室頻拍の原因になることがあります。しかもその心電図は実に多彩であり、同じ疾患であっても術式や負荷の度合いによって波形は全然違います。伝導障害をきたしている例もあり、ワイドQRSを伴う上室頻拍になることもある上に、通常の心室頻拍との鑑別基準に当てはめられない波形になることもあるので、元々の心電図が必要になります。

薬物治療歴なども非常に重要です。例えば、QT延長があれば抗不整脈薬や抗菌薬の内服がないかcheckする、T波の増高があればカリウム製剤やアンジオテンシン変換酵素阻害薬などの内服がないかcheckする、など原因がそこに隠れていることもあります。後はサプリメントも無視できないです。やせ薬という名の利尿薬が処方され低カリウム血症になっていたり、実は甘草を含む漢方を健康のために飲んでいて低カリウム血症になっていたりということもあります。そしてこれらは、何か内服をしていますか、と漫然と問うても答えてくれません。具体的にサプリメントは飲んでいますか、健康のために何か飲んでいますかと聞かなければ答えてくれないのです。


その2 その心電図の在り方を問う(心拍数計算法、校正波)

 心電図の機械は常にあなたの欲しい情報を出してくれていると思いますか。実は時々を仕掛けてくることがあります(ほとんどそんなことはありませんが)。ゆえに心電図の機械は100%信用してはいけません。自分で必ず確認しましょう。大事なことはペーパースピード校正波です。

ペーパースピードとは、波形を記録するのにどれくらいのスピードで紙を送っているかというものです。通常は心電図の端のどこかに小さく25㎜/s(ミリメートル/秒)と書いてあります。これは1秒に25㎜で紙を送っているという表記であり、1秒に25㎜ということは0.04秒に1㎜で紙を送っているということです。つまり1メモリ=1mm=40ms(ミリ秒)=0.04s(秒)となっています。そして1マス=5メモリ=5㎜=200ms(ミリ秒)=0.2s(秒)となっています。12誘導心電図ではほぼすべて25㎜/sですが、ホルター心電図などではたまに半分圧縮させて表記されていることがあります。12誘導心電図においてはこの前提がまずあって、心拍数の計算ができることを頭の片隅に置いておいてください。

心拍数計算法1 300÷マス数 


心拍数の計測において1番メジャーな方法はおそらく「300÷マス数」でしょう。例えばRR間隔が5マス空いていれば300÷5=60となり、心拍数60bpm(beats per minutes:拍/分)ということです。1マスは0.2秒なので、5マスは1秒です。心拍数は1分間の心拍の数なので1秒に1回ということは1分間に60回の拍数があるということです。計算が得意ではあれば300÷6.5=46bpmということもすぐに計算できるでしょう。これのメリットは頻拍の計算がしやすいということと、その気になればちょっと細かい数値まで出せるということがあります。一方で徐脈の場合はマス数が数えにくいということと、RR間隔のばらつきがあるとどこをとるかで数値が全然変わってしまうということがあります。

心拍数計算法2 1枚の心電図にあるQRS波の数×6

もう一つの計測方法は 「1枚の心電図にあるQRS波の数×6」です。先ほどとは逆で徐脈の場合に力を発揮します。普通の12誘導心電図の1画面は10秒記録されています。つまり、全部の心拍を数えて6をかければ1分間(60秒)の心拍数が出てきます。わからなければ、一度自院の出力される心電図のマス数を端から端まで数えてください。1マス0.2秒なので、50マスあれば10秒です。これだと徐脈の時はむしろ心拍の数は数えやすく、ばらついていても大まかな心拍数は把握することができます。デメリットはあまり正確な数値は出ないことと、頻拍でこれを使うと数えるのが大変ということです。下の図では一連の流れの中でQRS波が12個あるので12×6=72bpmとなります。

また、心電図の記録には四肢誘導と胸部誘導とが連続的に記録されているものと、同期して記録されているものがあります。連続的に記録されたものは左右で違うタイミングの波形となります。同期したものであれば、左右の心電図は同じタイミングの波形を見ています。上記の1枚の心電図の記録に10秒かかっているというのは、連続波形の心電図の話になります。連続10秒で記録された心電図であれば、1列分数えればオーケーです。ただ、同期心電図であれば両方足すと数値がずれてしまいます。同期心電図であれば、片側に記録されたQRS数×12をすれば大体の心拍数を確認することが可能です。しかし当然ながら、ずれは大きくなります。


校正波の話

 もう一つ心電図の機械に惑わされないようにしなければならないことが電位の高さについてです。その心電図の波高値をどれくらいで示しているかは横についているの部分で表記されていて、これを校正波、あるいはキャリブレーションといいます。普段あまり気にしたことすらない人もいると思います。むしろ看護師であれば、モニターの波形の電位を調整したりしますよね。あれと同じで、どれくらいの高さで表記するかは実は調整可能です。通常であればこの凸の大きさ分が、1mVを表しています。つまり校正波が10メモリ分あれば、1メモリが0.1mVです。


 しかし校正波が5メモリ分しかなかったら、1メモリが0.2mVとなり、見かけ上半分の電位になってしまいます。普通は1mm=1メモリ=0.1mVですが、たまに左室高電位があると自動で校正波を半分にしてしまうことがあります。なぜなら左室高電位があると胸部誘導においては波形がかぶってしまい、見にくくなってしまうのです。機械が勝手に気を使ってくれるわけですね。


その3 木を見る前に森を見る(勉強法)

 さあそろそろ所見を見つけてやるぞ、と意気込みたくなるのはわかりますが、ちょっと待ってください。慣れないうちは型通り読むようにしてください。日本には物事を学んでいくうえで「守・破・離」という考え方があります。


守:師匠から学んだ型を守り、習得する

破:師匠の方だけでなく他人の方法も勉強し、より良い方法を試せるようになる

離:自己流の、より洗練された方法を確立させることができる


心電図読影においてもこの考え方は参考にできます。この話において大事なことは特に2つだと思っていて、


1:まずきちんとした読影法を習得すること

2:実臨床に生かせる自己流読影術を確立させること


です。本書の目標でもあるように、まずは所見をとり漏らさないこと、得た所見から正しい診断を導き出せることがまず最優先です。これをしないと、いつまでたっても心電図を読めるようにはなりません。私も若いころは意気込んで心電図を読んでいました。型を知らない頃は、どうしても派手な所見に引っ張られて、読めるときは読めるし、読めない時は読めないしでした。というか型がないので、何が読めていないのかも分からない状況でした。クイズみたいに当たった、当たってないということがわかるだけだったのです。これではなかなか成長しませんし、いつまでたっても論理的に所見を積み上げることができません。これを改善するためには一つ一つ所見を拾って鑑別を上げてそれを答え合わせするということが必要です。これは最初のうちは、とてもとてもめんどくさい作業になります。1読影に人の倍は時間がかかるでしょう。でもそれを続けていると、ブレイクスルーする日が必ず来ます。そしてそれが心電図に沼る瞬間でもあります。自分じゃ気が付かないかもしれません。何かSTが変だなと思えた、自動解析と同じ答えになることが増えた気がする、上司の気が付かない所見に先に気付けた、などきっかけはささいなこともありますが、成長の証です。 

 そしてそれを続けていると、いつの間にか読影時間は人の半分になっているはずです。それは人の倍時間をかけて読影していくことでしか身に付かない、あなただけの特殊能力です。きっと無意識のうちに、見るべきポイントを見れるようになっているのです。現に私も今、型通りに全部を見ていることは(無意識にはやっているかもしれませんが)、少なくとも意識してやってはいません。半分は経験則もあると思います。似たような波形を見たことがあり、その所見が得られる理屈を知っているのです。

読影のイメージですが、初学者はまだ知識が少ないので一歩一歩鑑別を上げて読んでいくことになると思います。これは1例ですが、完全房室ブロックの心電図です。

 最初はこのように順々にアルゴリズムを思い出しながら解くことになるでしょう。これでいいのです。ここで終わってしまうと、もったいないんです。これでは当たるか当たらないかのクイズを解いているだけなのと同じです。知識を定着させて臨床応用させるにはそこから、なぜその疾患でそのような波形になるのかと逆方向に頭で理解できれば知識の定着もはかどります。

繰り返しこのアルゴリズムを頭に描いていくと、一瞬で下図のように鑑別が同時に上がり、ノータイムで正解にたどり着けるようになります。このアルゴリズムが一瞬で解けるので、もはや図のように所見を真ん中において診断を導くような形に近くなります。この所見があるからこの疾患だけでなく、この疾患であるならばこの所見があるはずだという双方向的に心電図を読めるようになります。

 巷には心電図の本は本当にたくさんあります。私も今でも買って読みます。新しい気付きがあることもあるし、忘れていたことを思い出させてくれることもあります。きっとこれを読んでくれている皆さんも、これが一冊目ではないでしょう。本を読んで勉強してさえいれば、いつの日か読めるようになると思いますか。残念ながらそんな日は来ません。知識はインプットだけでは何の意味も持たないのです。知識があっても実際に心電図に触れて、アウトプットしなければ宝の持ち腐れです。問題を解くことにも多少意味はありますが、特に実臨床で心電図を読むことに勝るアウトプットはないでしょう。なぜなら問題集には必要な情報しか書かれていませんが、実際には主訴や病歴などの情報を自分で集めなければならず、関係ない情報などが混じることも多いからです。
そしてアウトプットするだけでも50点であり、それにフィードバックを受けて初めて、そのアウトプットが正しかったことを確認できるのです。そのアウトプット先もレベルによって4段階あり、

1. 問題集を解いて自分で確認する
2. 心電図を読んで自動解析で確認する
3. 患者心電図を読んで治療に貢献する
4. 職員からの心電図質問を受けて正しくわかりやすく解答する

です。1、2は自分だけでもできます。3は医師であれば自分でできるし、他職種であればカルテを見れば確認は可能でしょう。私は4が絶対一番勉強になると思っています。レベルの高い質問を受けたら自分で知識を少し補填しないと回答できないかもしれませんし、レベルの高くない質問を受けたら受けたでそのレベルに合わせた解説をしないと理解してもらえないかもしれません。どちらにしても、正しく根拠のあるインプットとわかりやすく理論的なアウトプットの両方を必要とします。そして人に説明しようとして行うインプットは、とても効率よく頭に入ります。これは問題集だけ解いていても絶対見にはつかないスキルです。アウトプットするのは、間違えたら恥ずかしいと思うかもしれません。最初はこそっと先輩や仲のいい先生に確認しておいてから、後輩にどや顔で教えてあげたらいいんです。人の知識でもいいです。最初はみんなそうですし、次は自分の知識になっているんです。だまされたと思って一回、新卒の後輩に教えてあげてみてください。

ずいぶん話がそれてしまいました。心電図に話を戻します。慌てて所見に走るのではなく、どんな時でもまず全体を見る、つまり心拍数リズムを確認します。どんな時も、です。
まず心拍数です。前項のように一般的なペーパースピードになっていれば、心拍数の計算はそれほど難しくありません。正常の下限を50bpmにするか60bpmにするかは議論がありますが、どちらでもいいです。とにかく、50bpm以下であれば徐脈、100以上であれば頻脈と判定します。

 次にリズムを確認します。RR間隔に乱れがなければレギュラー、RR間隔が一定でなければ、イレギュラーと判断します。さらにそのイレギュラーに規則性があれば、それも確認しておいてください。期外収縮が出てるとか、3回に1回RR間隔が延長してQRS波が脱落しているとかです。例えば心房細動であれば絶対的にRR間隔は規則性のない波形になります。後はそれ以上読める人であれば、診断を進めてもらっても構いませんし、難しければまずはここまででも大丈夫です。徐脈や頻脈の鑑別はフローチャートにまとめます。




その4 忘れそうな所見は先に取っておく(軸、移行帯)

 

ここでは軸偏位と移行帯の話になります。聞いたことはあるけどよくわからない、という人も多いでしょう。そもそも軸や移行帯という言葉がピンときにくいのと、これが疾患と1対1対応するわけではないので、どうしても勉強として後回しにしがちです。先に確認する癖をつけておきましょう。

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