新日本フィル×ベートーヴェン×愛媛【インタビュー】
こんにちは!note更新担当のたぬ子です。
6月5日に愛媛県県民文化会館で行われる、”50周年記念演奏会”に先立ち、”新日本フィルハーモニー交響楽団”のソロ・コンサートマスター 崔 文洙さんに、お話を伺いました。
新日本フィルハーモニー交響楽団50年間の歩みや思い出、コンサートホールで聴くクラシックの素晴らしさなど、盛りだくさんの内容です。
50年続く、挑戦する姿勢
ー創立50周年を迎えた、新日本フィルハーモニー交響楽団の歴史や特徴を教えていただけますか。
新日本フィル(新日本フィルハーモニー交響楽団)は、1972年に日フィル(日本フィルハーモニー交響楽団)から、独立してできた楽団です。
当時は、労働組合運動が盛んで、楽団員たちも労使抗争をしていましたが、「こんなことより、音楽をやろう!」と、小澤征爾さんと山本直純さん主導で、新しいオーケストラを立ち上げました。
最初は手探りの状態で、楽団員が電話番など、何から何までするような、手作り感満載のオーケストラでしたね。
ーそういった経緯で、活動をスタートされたんですね。
そうなんです。
そして新日本フィルは、「若い人たちにチャンスを与え、一緒に音楽を作っていこう」というスタンスのオーケストラです。
新日本フィルより前からあるオケは、割と堅実に保守的な傾向にあったんですけど、新日本フィルは”チャレンジングな音楽づくり”を、事務局や指揮者を含めて、みんなで作ってきた歴史があります。
例えば、2022年4月からミュージック・アドヴァイザー、2023年4月から音楽監督に就任される佐渡さんも、新日本フィルでデビューを飾っていますし、他にも数多くの若い演奏家が新日本フィルからデビューをされています。
ー“チャレンジング”という言葉が出ましたが、他にも演奏のキーワードはありますか。
他のオケと比べて、練習の合間などにディスカッションをよくするオーケストラだと思います。
みなさん音楽づくりのために、先輩後輩関係なく意見を出し合って、「いいもの作る」という意識をもっていますね。
ーコミュニケーションのとれた、ストイックな楽団なんですね。
不安要素を残して本番を迎えてしまうことは、あってはならないなので、楽団員全員が、最大限の準備をして本番に臨むという姿勢で取り組んでいます。
15回の集大成を、ぜひ愛媛で
ー2023年より音楽監督を務められる佐渡裕さんは、どのようなお人柄ですか。
数多く共演してるんですけれども、みなさんがテレビでご覧なっている、すごく気さくで、人懐っこく、おちゃめな印象のままです。
人間味があって、人を引き付ける生まれ持った力を感じますね。
佐渡さんが、兵庫のPAC(兵庫芸術文化センター管弦楽団)をメインに活動され始めてから、共演の機会が少し空いてしまっていたので、また一緒に音楽づくりができて、とても嬉しいです。
ー今年の1月に当公演と同じ顔ぶれで『皇帝』を演奏されましたが、その時の感想など、お伺いできますか。
佐渡さんと反田さんはとても仲がいいということで、現場で一緒に音楽づくりをしている僕らにも、二人の信頼関係がすごく伝わってきました。
実は、今回の50周年記念演奏会と定期演奏会を合わせて、『皇帝』を15回演奏するスケジュールになっているんです(笑)
先のことを考えると気が遠くなりそうなんですが、15回も同じ曲を連続して演奏できるせっかくの機会ですので、いろんなことを仕掛けて、チャレンジして、全員で意見を出し合いながら、おもしろいものを作っていきたいです。
ー回を重ねるごとに変化していって、おもしろそうですね。
「今日はこうしたけど、明日は違うことしてみよう」って、いろんなことを試していきたいです。
なので、初日と15回目の演奏は全く違っている可能性があって、僕らも「どういう展開や発展があるのか」とても楽しみにしております。
特に、愛媛公演は最終日なので、僕らの集大成が聴けるんじゃないかな。
ー『皇帝』と『交響曲第7番』の聴きどころを教えていただけますか。
この2曲は、もうド定番っていう感じですね。
ステーキとお寿司を一緒に食べちゃうみたいな(笑)
ー重い×重いって感じですね。
『皇帝』は、ベートーヴェンのピアノコンチェルトの中で、一番有名な曲ですし、『交響曲第7番』も9曲あるシンフォニーの中ではとても人気がある作品ですからね。
ベートーヴェンの交響曲は、奇数番号(1・3・5・7・9)と、偶数番号(2・4・6・8)が、表裏一体で構成されていて、奇数番号は力強く、断定的にベートーヴェンが強く語り、偶数番号は叙情的なんです。
今回演奏する7番は、特にリズムが特徴的で、躍動感に満ちた曲なので、聴いてる方が活気づいてくれると嬉しいです。
年月が経っても忘れない記憶
ー崔さんは、新日本フィルハーモニー交響楽団でコンサートマスターになられて、どのぐらいになりますか。
29歳からなんで、25年ぐらいですね。
ーコンサートマスターになられた頃の演奏や、気持ちを覚えていますか。
昔のことは、もうあんまり覚えていないんですけど、最初のことはさすがに覚えています(笑)
ボッセ先生(ゲルハルト・ボッセ氏)の指揮で、ハイドンの『朝』『昼』『晩』という、ソロもある室内楽的な曲でした。
それが僕の新日本フィルでの初仕事です。
当時は約10年のロシア生活から、日本に帰ってきたばかりだったので、日本の音楽環境に少しカルチャーショックを受けていました。
今は25年も経っているので気づけませんけど、最初は日本ならではの発見がたくさんありましたね。
生活様式の違いが、音楽にも反映されていたり。
仕事の流れとか、いろんなことが違うんだなって。
別にどっちがいいとか、悪いとかっていうんじゃなくて、ただ”違う”ってことなんですけど。
その”違い”が、おもしろかったです。
ー今までで、1番印象に残っているコンサートはいつのコンサートですか。
結構難しいんですけど。そうですね…。
「絶対に忘れない」と思えるのは、東日本大震災があった日に、トリフォニーホールでやった、ダニエル・ハーディングさん指揮の演奏会ですね。
公共交通機関が全部ストップしている中、楽団員はなんとか集まって。
余震でグラグラ揺れる中でゲネプロやって、本番やって。
ほとんどお客様がいらっしゃらない、歩いてやっと会場に来られるような状況で演奏会をやった、というのは忘れられないですね。
記憶に深く刻み込まれています。
ゲネプロから本番まで、テレビでは津波の映像が流れているような時でしたから、みんなすごく複雑な気持ちで本番を迎えていたと思います。
演奏会が終了しても、ほとんどの楽団員さんが帰れず、そのまま会場に泊まっていましたし。
本当は、次の日も演奏会があるはずだったんですけれども、さすがにできなかったですね。
コンサートでしか伝わらない良さがある
ークラシックコンサートや、クラシック音楽の楽しみ方を教えていただけますか。
難しいことは考えず、コンサート会場に足を運んでもらいたいですね。
そこまで足を運んでいただけたら、あとは、電気を通さず空気を通して伝わる生の音圧とか、音の響きっていうのを、五感で感じてもらうだけなので。
その”生で”演奏することが、クラシック音楽の素晴らしさなんですよ。
もちろん、観客5万人の大爆音ロックコンサートも楽しいんですけど、最大約100人の音楽家が舞台に上がって、1つの構造物を作り上げ、みなさまに聴いて、感じていただくというプロセスは、クラシックコンサートの唯一無二の魅力だと自負しています。
その魅力を、「今までクラシックなんて聞いたことないよ」って方に、知っていただくのが難しいんですけどね。
会場に足を運んでもらったら、魅力が伝わると思うんですけど、その第一歩が…。
どうしたらいいか、逆に教えていただきたいぐらいです(笑)
ー“電気を通さず、空気を通して聴いて欲しい”という言葉、すごく刺さりました。生の演奏は、CDで聴いてるのと違うなって思いますもん。
そうなんですよね。
CDや、ダウンロードされた音源って、どちらにしてもレコーディングする時に電気を通すじゃないですか。
マイク通して、ミキサー通して、最終的にはコンピューターで調整して。
そうすると、実際会場に座って聴いている音のバランスと違ってくるんですよね。
初めて生オーケストラを聴くお客さんから、「意外と音小さいんだね」なんて言われたこともあります(笑)
僕としては、そりゃそうですよって感じで(笑)
でも、10~15分ぐらい会場にいて耳が慣れてくると、演奏だけでなく演奏家の息遣いまで聴こえてきて、そこにホールの響きが重なって、空気を伝う生音の素晴らしさが、心に染みわたってくるんです。
それが、感動や感銘に繋がっていくんじゃないかな。
ー“電気を通さず、空気を通して聴いて欲しい”というのは、崔さんの言葉ですか。
僕は、いつもそう思っていますね。
音楽家にとって、自分の想いを伝える手段が演奏なんですけど、僕らだけが伝えているわけではないんですよ。
お客さまの雰囲気や気というのは、舞台上にいても感じるわけで。
なので、演奏中はお客さまとの会話を楽しんでいます。
最近は便利になってしまって、動画サイトで簡単に音源が手に入れられちゃうじゃないですか。
それを若い子は「拾ってきた」って言ってますけど、「演奏する方は大変なんだから、そんな簡単に拾わないでよ」って思います。
便利なのはいいことですけど、本質を突き進めて、掘り下げていくっていう音楽のスタンスと、乖離していってるような気がしていて。
文明が進歩しすぎると、逆に文化は衰退するのかな。
ここのバランスを、うまくとっていきたいです。
サンダル×短パンで、クラシックへようこそ
ークラシックコンサートはハードルが高い印象ですが、初心者はどんなふうに楽しめばいいのでしょうか。
全国津々浦々、いろんなところで演奏させていただいていますけれども、日本は全体的に、みなさまお行儀がいいんですよ。
僕は、そんなにかしこまって、硬くならないで、リラックスして聴いてほしいって思うんですけどね。
日本は最近マナーにうるさくて、「静寂を十分堪能してから、拍手や掛け声をしてください」っていう風潮ですよね。
そうしないと怒られちゃうみたいな。
ヨーロッパだと、みんなざっくばらんにリラックスして聴いていますし、生活の一部になっています。
「今日コンサート行ってみる?」
「ブルックナーか、久しぶりに行ってみようか」
って、だいぶカジュアルな感じなんですよね。
日本でも、「黙って、かしこまって、正装して!」みたいな演奏会だけでなく、もっとリラックスして、楽しんでいただける環境になれば、みなさんの身近なものになっていくのかな。
「買い物のついでにちょっと行ってくる」ぐらいまで、なってくれるといいなって思いますね。
極端な話、サンダルに短パンでフラッと寄ってくれれば嬉しいです(笑)
ー公演を楽しみにしているお客さまへ、メッセージをお願いします。
佐渡さんや反田さんが、「どうやって音楽を伝えるか」って考えてる方だから、初めてクラシックコンサートとして、うってつけだと思います。
特に佐渡さんは、人間的にお茶目な可愛いとこもあるので、みなさん親しみを感じて演奏に接することができるんじゃないかな。
愛媛にうかがうのは、相当久しぶりなんですけれども、素晴らしい次期音楽監督の佐渡さんと、話題の反田さんとの共演ということで、とてもエキサイティングなコンサートになることは、間違いないです!
ぜひ、演奏会場に足を運んでいただいて、生の演奏から何か感じ取っていただけたら幸いです。
詳細・問い合わせ先
大和証券グループ Presents
〈指揮〉佐渡裕/〈ピアノ〉反田恭平
新日本フィルハーモニー交響楽団 50周年記念演奏会
2022年6月5日㈰ 12:00開場 13:00開演
愛媛県県民文化会館 メインホール
SS席:11,000円 S席:9,000円
A席:8,000円 B席:5,500円 C席:4,000円
問い合わせ先
テレビ愛媛 事業部 089-933-0322(平日9:30~17:00)
愛媛県県民文化会館 089-927-4777(平日9:00~17:00)
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