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映画「ボヘミアン・ラプソディ」をサポーター視点で鑑賞する。見えてきたウェンブリーの思い出と差別の構造。

話題の映画「ボヘミアン・ラプソディ」にはサポーター視点で見逃せないポイントが2つある。1つはCGとセットによる旧ウェンブリースタジアムの見事な再現性。もう一つは南アジア系住民に対する差別の問題だ。

2つの塔が特徴だった、あの旧ウェンブリースタジアムだ。日本のサッカーファンには、井原正巳がゴールを奪った1995年アンブロカップでのイングランド代表戦が有名。

この動画に登場する、あの「ライヴエイド(LIVE AID)」のシーンの舞台は旧ウェンブリースタジアム。2007年に建て替えられた今のウェンブリースタジアムではない。日本代表はアジアの代表チームとして、初めてウェンブリースタジアムに招待された。誇り高き激戦だった。2012年には、今のウェンブリースタジアムでも日本代表は闘っている。ロンドン五輪だ。男子は準決勝戦を、女子は準決勝戦と決勝戦の会場だった。しかし、今のウェンブリースタジアムに二つの塔はない。大スクリーンで懐かしいスタジアムを見るだけでも感動する。

この映画の冒頭に出てくる「パキ!」「パキスタンじゃないよ!」というセリフの重要な意味。

さりげなく、普通に字幕がついている。だから、多くの日本人は気がつかないかもしれない。でも、サポーター視点で、このセリフを聞くと、映画製作者の意図を強く感じる事になる。英国に居住経験のある友人によると「パキ!」はこのような意味だそうだ。

イギリスに住んでいた時、パキは白人も含め皆さんがインド亜大陸系有色人種を指す隠語で使っているようだった。別に差別用語という意識もないし、パキスタン人の友達も「インド人に言われない限り、インド人以外からパキと呼ばれるのは嫌ではないよ、皆んなも同じ」。
つまりパキはインド人が絡むと(間違えられるのを含めると)差別用語というより、ムッとする言葉と解釈しています。反韓的な日本人が韓国人に間違えられる感覚かしら。

上記は、おそらく一般的なパキスタン人側からの解釈になる。

ところがサッカーにおいては「パキ」は90年台前半までウェンブリーでもよく野次で使われていた。サッカー場での定番の差別野次や差別チャントに使用される単語だった。

I'd rather be a Paki than a MACKEM

「MACKEM」とは「サンダーランドの人」の意味。下の動画で歌われているのは「サンダーランド人になるくらいならパキの方がマシだ!」という意味になる。

サンダーランドのスタジアムに乗り込むアウェイチームのサポーターが、この歌を歌うのが定番だった。ところが、2003年4月2日のサンダーランドでは、このような歌詞で歌われていた。試合はイングランド代表×トルコ代表。

I'd rather be a Paki than a Turk

ヒトラースタイルの敬礼をしながら歌われたというエピソードは「サッカーの詩学と政治学」という書籍の序章、その「1はじめに」で紹介されている。

そのチャントには原型がある。それはリバプールやエバートンのサポーター(ファン)を侮辱するために多くのチームのサポーター(ファン)が使ったチャントの歌詞だ。

I'd rather be a Paki than a Scouse

多くのチームの差別チャントに使用されていたということは「パキ」は下の序列にあるという認識が、多くのチームのサポーターの間で共有されていることの証明となる。

普通に使用していれば差別にならない単語でも、時と相手を選べば十分に差別を表現する単語に変わるのだ。映画の主人公・フレディー・マーキュリーはインド系であり、映画の舞台は、プレミアリーグ誕生以前。イングランドサッカーには差別野次やチャントが渦巻いていた時代だ(今でも、その習慣は残っている)。この映画の冒頭のセリフは、差別に晒され続けて生きることになるフレディー・マーキュリーの物語を暗示している。

サッカーの聖地と言われたウェンブリースタジアム。そして、サッカー場での定番差別チャント。サポーター視点で見ると、この映画の舞台となった時代感で胸を締め付けられる思いになる。

そして、この曲は、なでしこジャパンが世界一になり日本サポーターが集めるフランクフルト中央駅前のパブで、店が気を利かせて大音量でかけてくれた名曲だ。あなたも、ぜひ映画「ボヘミアン・ラプソディ」を映画館で。

こちらのイベントの登壇することになりました。ぜひお越しください。
お申込みはこちらより。
12/19(水) OPEN 18:30/START 19:30/END 21:30予定
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石井和裕 @ece_malicia
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