女子サッカー選手に対する女子サッカーの特殊ファンによる誹謗中傷行為をどのように防ぐか。
なでしこリーグのINAC神戸が、2019年01月09日に、あまり見かけない類のニュースを掲載した。「SNSでの選手およびスタッフへの誹謗中傷行為につきまして」というタイトル。ニュースに掲載された文章によると「SNSを使用し特定の選手やスタッフに対して事実と全く異なる内容を記載し、それに伴い誹謗中傷する行為」が行われていたというのだ。実は、この行為は、多くの女子サッカー関係者、ファンにはすでに知られており悩みの種となっていた。
「遊び優先」「彼氏が」・・・根拠ない誹謗中傷が続いた。
INAC神戸が掲載したニュースは誰のどの投稿を指しているのかは特定できない文章になっているが、実際には、下記のような投稿を始めとして、多くの誹謗中傷がSNS等に投稿されている。このツイートは、対象となる女子サッカー選手に伝わるように、その選手のツイッターアカウントに対しての投稿となっている。
「選手をアスリートとして見られない」女子サッカーの特殊ファン。
先に紹介したINAC神戸が掲載したニュースの結びが「選手に対しては1人のアスリートとして、ご支援ご声援をいただけると幸いです。」となっているところに注目していただきたい。女子サッカーの特殊ファンは、女子サッカー選手が「アスリート」である以前に、自分自身のための「アイドル」として女子サッカー選手を見ているのではないかというニュアンスだ。
女子サッカー選手がファンにとっての「アイドル」であること自体は悪いことではない。だが、どのような「アイドル」と位置付けられているかは重要な視点だ。
サッカーファンとして「1人のアスリートであり自分のとってのアイドル的存在」として女子サッカー選手を見ているのであれば何ら問題になることではない。ただし「1人のアスリートであるという視点がない特殊ファン」の場合は話が別だ。私は。特殊ファンは「アイドル」に対して見えない階層を作っていると考えている。これを私は「特殊ファンによるアイドルピラミッド」と呼んでいる。トップに「アイドル」が君臨し、その下に「●●アイドル」と「アイドル」の前に名詞の付くアイドルが存在する(豚肉の場合は「黒」や「三元」等の文字が豚の上に付くとピラミッドのトップに近づくが「特殊ファンによるアイドルピラミッド」の場合は逆だ)。
特殊ファンは承認欲求と自己愛が強い。「誰なら自分を認めてくれそうか」を自分なりに探し出そうとする。
通常のアイドルファンは自分なりの楽しめるポイントに合わせて、誰をどのように応援するかのスタイルを自然に決めている。アイドルを好きなファン、グラビアアイドルを好きなファン、地下アイドルを好きなファン・・・ファンになるのに理由は不要。気が付けば好きになっているものだ。
しかし、特殊ファンは、通常のファンよりも承認欲求と自己愛が特別に強いがゆえに、ファンである目的や満足に達するラインが通常のアイドルファンとは異なる。
特殊ファンの思考はこのように考えられる。
●テレビ番組で活躍しドームや大型ホールで活躍するアイドルのファンのには競争相手が多く、自分を認めてもらえる可能性が低い。
●すると、写真撮影会等で活発に活動するグラビアアイドルや地下等にあるライヴハウス等の小さなサイズの会場で活躍する地下アイドルに触手を伸ばす。
●「特殊ファンによるアイドルピラミッド」の上から、自分を認めてもらえる可能性が高い下へ降りてくる。
ただし、ここからが特殊なところ。
●「特殊ファンによるアイドルピラミッド」の最も下の位置に記載した最も対象者人口の多そうな「職場や学校のアイドル的存在」には触手を伸ばしにくい。
●なぜなら、特殊ファンは自分が直接的に拒絶される可能性が高いというリスクがあるからだ。そこで・・・。
●「特殊ファンによるアイドルピラミッド」の上と下の隙間ポジション(特殊ファンによるアイドル界のバイタルエリア)にちょうど良く「女子アスリート等各種分野のアイドル的存在」が存在しているのを発見するのだ。
女性アスリート等の各種分野のアイドル的存在は、特殊ファンにとってちょうど良いターゲットとなる。
過去に起きたミュージシャンへのストーカー事件についての番組で、東京未来大学の出口保行教授は、ファンがストーカーに変化する理由について「ストーカーは自己愛が強い。(それゆえ)拒絶されると激しい怒りに変わる」と説明。その上で、「アイドルの場合、ファンに好かれたいとの思いから強く拒絶できない。あいまいな態度が逆にファンを刺激してしまう」という可能性があると解説している。
女子サッカー選手につきまとう女子サッカーの特殊ファンからは「女子サッカー選手ならばファンも多くないので自分は拒絶されないだろう、自分は感謝されるだろう」と女子サッカー選手のポジションを低く見積もっている印象を与える発言が多い。つまり、そのような女子サッカーの特殊ファンは、選手に対して、本来のアスリートとしての価値を認めてはいないケースが多い。
「●●さんに渡してもらえますか?」と「あの名選手」に呼びかけた女子サッカーの特殊ファンの例。
なでしこジャパンが世界一になり世間が女子サッカーブームに沸いていた頃の私の体験談だ。場所は駒場スタジアム。湯郷ベルの選手たちが試合を終えてピッチを去ろうとしていた。国際サッカー連盟(FIFA)に年間最優秀選手賞にもノミネートされた世界的な女子サッカーの名選手である宮間あや選手が、スタンドのファンからのサインの要望に丁寧に応じていた。そこに現れた女子サッカーの特殊ファンの一人が宮間あや選手にプレゼントを突き出し、こう言い放った。
「これ、●●選手に渡してもらえませんか?」
この女子サッカーの特殊ファンは宮間あや選手の価値はもちろん、女子サッカー選手のアスリートとしての価値を認めているとは考えにくい。
女子サッカーの特殊ファンを持ち上げてはいけない。
INAC神戸を長く応援し続けているサポーターは、ニュースに掲載された女子サッカーの特殊ファンに対して注意をしていた。しかし、逆におだて持ち上げていた人もおり行動はエスカレートしていったようだ。トラブル防止のために、いたずらに女子サッカーの特殊ファンを煽ることは避けるべきだが、持ち上げることは厳禁だ。
女子サッカー選手が単独で身を守ることは困難。クラブや競技団体による支援が重要。
INAC神戸はニュースにおいて「このような行為が行なわれるようであれば、クラブとしましてもしかるべき機関へ相談し対応をさせていただきます。」と記載している。女子サッカーの特殊ファンによる誹謗中傷行為や迷惑行為が許されないものであるということを広く知らせることが予防につながる(女子サッカーの特殊ファンは女子サッカー全体がどうなろうと関心が薄いので「女子サッカーのためにならない」という理由は予防には繋がりにくい)。問題が顕在化したINAC神戸のみならず、各クラブや競技団体が女子サッカーの特殊ファンの心理や行動を理解し、対応策を横並びで定め周知していくことが必要なのではないだろうか。
ありがとうございます。あなたのご支援に感謝申し上げます。