アイロントースト:妹の恋人
トーストするときのアイロンの温度は、レーヨンです。
両親を2年前に亡くし、心を病んだ妹のジューンの世話をしながら、自動車整備工として働く、やさしい兄、ベニー。
ジューンは家で毎日絵を描いたり、不思議なジュースを作ったり、時々、外へ出て、奇妙な行動をとったりしている。
主治医からは、兄一人で妹の世話をするのは限界だからと、グループホームを提案されても、ベニーはジューンを手放せない。
ベニーが働いている間、ジューンの世話をするお手伝いの人は、扱いにくいジューンに手を焼いて次々辞めていく。
そんなとき、ポーカーのツケに、押し付けられ家に置くことになったのがサム。
サムはあまり話さず、読み書きはできないので、厄介払いされたのだ。
それでも、昼間ジューンの面倒を見てもらえるならと思って同居することになった。
家事が得意で、掃除好き。
トーストはアイロンで器用に焼く。
じゃがいもは、テニスラケットで潰してマッシュポテトを作る。
何より、映画好きで、チャップリンとキートンの真似がすごーくうまい。
黄金狂時代の「ブレッドダンス」を再現したり、公園ではイスをパタンパタン倒して歩くパフォーマンスをする。
町では人気者になり、何より、ジューンがサムのことを大好きになった。
実はサムはとても記憶力が良くて、昔のB級映画に出ていた女優さんで名前はルーシーのセリフを全部言ったりする。
ルーシーと兄のベニーはお付き合いを始めるが、ジューンもサムと恋に落ちる。
でも、兄は、妹の恋愛を認められない。
ジューンとサムは駆け落ちをするが、ジューンはパニックを起こし、精神科病棟に入院させられてしまう。
ベニーとサムは協力してジューンを病院から出すことになるのだが、その大冒険がものすごーく面白い。
結局、ジューンとサムは、ルーシーの経営するアパートに暮らすことになり、兄は二人を見守ることになる。
サムはアイロンでトーストを焼く。
温度はレーヨンでね。
この映画は、無声映画が大好きな人が見たら、たまらないだろう。
ジョニー・デップの演技は、なるほど、この辺からきてるんだなと思う。
この映画と同じ時期に公開された、「チャーリー」は、ロバート・ダウニー・ジュニアがチャーリー・チャップリンを演じて話題になった。
私もキートンやチャップリンが大好きだけど、長女は私よりもっと無声映画が好きだ。
もう見てるだけで面白いから、知的障害があろうが、自閉症であろうが、ハートにそのまんま届いてしまうのだろう。
私がこの映画を気に入っているところは、障害や精神疾患を「ラベリング」していないというところだ。
見る人が見たら、ジューンの病気は、とか、サムの症状は、とかすぐわかるだろうし、分かって蘊蓄を垂れる人はいっぱいいるだろうけど、監督や脚本家は、一切、病名や障害名を言っていない。
要するに、ジューンやサムを一人の人間として、(障害者とか精神疾患とかでなく)サム、ジューンと認めているということになる。
そして、兄さえも、二人の恋愛に反対していたのだが、結局二人の幸せを願って、カップルとして認めたのだ。
最近、障害者同士の結婚や同居を認めないという社会福祉法人が話題になったけど、「サム」はひとりの人間,「ジューン」はひとりの人間と表現した、この映画はすごいと思う。
30年前の映画だけど。
ちなみに脚本のバーマンさんはピエロの方です。
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