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香港ノワール

私は香港映画が好きだ。
今は香港は中国の特別行政区となっているが、かつてはイギリスの植民地として、東西の文化が入り混じった独特の文化を誇っていた。
その最たるものが映画だった。

香港映画は香港の重要な産業でもあり、その娯楽性が人々を引き付けた。
その要因の一つは香港の街の景色にあったと思う。
ものすごく狭くて、人が大勢いて、二階建てバスが屋根ギリギリに走り、町中の飛行場から飛び立つ飛行機は、窓すれすれに見える。

広東語の響きは活気があって、市場はごったがえし、九龍城なんていう要塞みたいな、居住空間があって、入ったら出てこられないような迷路がおどろおどろしくも、魅力的だった。

私は香港に行ったことがないから、これはすべて、映画から得た知識だ。
面白いなと思うのは、「恋する惑星」に出てくる、エスカレーターだ。
町を歩いていると、道がエスカレーターになる。
エスカレーターを上がりながら、両側の家の窓から、暮らしが見える。

そして、なんといっても、世界に誇る文化としての香港映画の名作の数々。
監督、俳優、アクションのスタントマン。
勢いがあった香港映画。
20世紀のころは香港映画は永遠に続くものだと思っていたが、香港がイギリスから返還されて、映画の世界も変わってきた。
そして中国映画がたくさん作られるようになった。

しかし、いわゆる香港映画は、激少してしまった。
とても寂しい限りではある。

それでも、いまだに私の好きな香港映画は、香港ノワールの作品である。
「あなたの好きな映画を三つ教えてください」と聞かれたら、
「インファナルアフェア1,2,3」と答えてしまうくらい、特にこのシリーズが好きだ。
マーティン・スコセッシが、「ディパーテッド」という作品にリメイクしても、WOWOWが「ダブルフェイス」としてドラマ化しても、全然、原作には及ばない。とても長い長い三部作の映画なのだが、ときどき無性にこの映画が見たくなる。
まるで、ふるさとを思う気持ちのような(私に故郷はないけど)なつかしさなのである。
見る時間が持てなくても大丈夫。
脳内スクリーンで大好きなシーンを大写しにして雰囲気を楽しんでいる。

私は映画を見るときは、なんだかんだ言わないで(評論家になる人多い)映画を丸ごと受け止めて見る。
自分の頭で考えた尺度だとか、自分の都合に合わせた解釈だとかは一切しない。
衣裳や小道具やメイクや、景色や、すべてをそのまま見て楽しんでいる。

そして、自分を広げて、映画の世界に入って行く。
そうすると、難解な映画とかいわれている映画でも、へえ、世の中にはこういう映像やストリーを作る人がいるのだなあ。おもしろいなあ。
自分にはない発想をする人がいることが、とても面白く感じる。
自分では見たこととも思いついたこともない映像を見ることができたとき、心の目が大きく開かれる気がする。

そうして、自分の世界が、少し広がっていく。
映画は、私の心を広げてくれる。
自分という狭い世界に、世の中を引き寄せるのでなく、自分を広い世界に向けていくことができる。

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ecco
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