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ストレスと白髪化:ATMついて
はじめに:ストレスが髪の色を奪う理由
白髪化は単なる加齢の象徴ではなく、ストレスが直接引き金となる場合があります。最新の研究では、髪の毛の色を生み出すメラノサイトが、ストレス応答タンパク質の不足によって劣化し、白髪化が進むメカニズムが明らかにされています。特にアタキシア・テランジエクタジア変異タンパク質(ATM)が白髪化の進行に重要な役割を果たしていることを示しました。
メラノサイトとATMの不思議な関係
髪の色を決定するのはメラノサイトが生成するメラニンですが、ストレスはメラノサイトのDNA損傷応答を阻害することで白髪化を引き起こします。白髪化しやすい頭皮の毛包ではATMが顕著に減少していることが発見されました。
ATMの役割: ATMは細胞のDNA損傷を感知して修復を促す重要なタンパク質。これが欠乏すると、メラノサイトの寿命が短くなり、髪が白くなるリスクが高まります。
ストレスとATM: ストレスによりATMの活性が低下することで、メラノサイトが正常に機能しなくなる可能性が指摘されています。
ストレスが髪に与えるもう一つの影響
白髪だけでなく、ストレスは髪全体の健康にも悪影響を及ぼします。
コルチゾール蓄積の豆知識
髪の毛に蓄積されるコルチゾール濃度は、過去数ヶ月間の慢性的なストレスレベルを反映します。髪を使ったコルチゾール測定がストレスモニタリングに有効であることを示しました。
これは、血液や唾液と異なり、長期的なストレスの履歴を確認できるという点でユニークです。
髪の豆知識:ストレスで毛包が眠る?
ストレスが毛包の成長期(アナゲン)を休止期(テロゲン)にシフトさせることを発見しました。これにより髪の成長が停止し、抜け毛が増加することがあります。
白髪化予防のためのヒント
最新の研究成果を日常生活に生かす方法として、以下の対策が考えられます:
ストレスマネジメント: ヨガや瞑想、適度な運動でストレスホルモンの分泌を抑える。
抗酸化食品の摂取: ブルーベリーやナッツ、ほうれん草などの抗酸化作用のある食品を摂ることでメラノサイトの健康を維持。
スカルプケア製品の活用: メラノサイト保護効果を謳うシャンプーやトリートメントの利用。
ちょっとした豆知識
白髪と黒髪は同じ構造:白髪でも髪の構造自体は黒髪と同じですが、メラニン色素が欠乏しているだけです。
メラノサイトは補充できない:一度損失したメラノサイトは自然に再生しないため、予防が重要です。
ストレスは瞬間でも影響を与える?:突然の強いストレスが短期間で白髪を生じさせる「マリー・アントワネット症候群」のような現象も報告されています。
未来の研究と展望
ATMを活性化する治療法やDNA損傷を軽減するスカルプケア製品の開発が進めば、ストレスや加齢による白髪化を遅らせる可能性があります。また、髪の健康をチェックするコルチゾール測定は、心理的健康のモニタリングツールとして普及する可能性もあります。
参考文献
Sikkink S, Durbin-Johnson BP, Rocke DM, et al.
"Stress-sensing in the human greying hair follicle: Ataxia Telangiectasia Mutated (ATM) depletion in hair bulb melanocytes in canities-prone scalp."
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"Hair cortisol as a biological marker of chronic stress: Current status, future directions and unanswered questions."
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"The balance of Bmp6 and Wnt10b regulates the telogen-anagen transition of hair follicles."
Cell Commun Signal, 17, 16 (2019). https://doi.org/10.1186/s12964-019-0330-x