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2019夏・クリーニング屋
図書館にむかう道すがら、クリーニング屋を見つけた。
こじんまりとして町に根付いている感じが、うん。私好み。
今住んでいる家に一年前に越してきたばかりなので、クリーニング屋はまだ開拓していなかったのだ。
ゆっくり通り過ぎながら、中をチラ見したら、ちんまりとしたおばあちゃんが、背中を丸めて気持ちよさそうにうたた寝していた。
よし、ここに決めた。
営業時間を確認して、翌日、仕事から帰って一息つくと、早速、洋服を手にクリーニング屋へ向かった。
今日は、うたた寝していないだろうか。気持ちよさそうだったなぁ。と、おばあちゃんの寝顔に期待なんてしながら歩いて行くと、店のなかには誰もいなかった。
それらしき後姿が店から離れていくのが見えて、思いきって呼びとめてみたら、クリーニング屋のおばあちゃんであった。
ニコッと微笑んで、「あ、はいはい」と店へ戻るおばあちゃん。
店を不在にして大丈夫なのだろうかとも思ったが、おばあちゃんの方は実に堂々としていて、カウンターの方へまわりながら老眼鏡をかけなおす様も、洋服を広げてシミなどのチェックをする動作も、一つひとつが無駄がなくかっこいい。しわしわの手もかっこいい。
と、おばあちゃんの背後から、野球中継の音が流れてくる。巨人とどこかが戦っているようだ。
店の奥は自宅となっているようで、そこから聞こえてくる。のれんがサワサワ風に揺れて、その度に畳とちゃぶ台が見え隠れしていた。
そういえば、私の父も、夏になると畳の部屋でテレビに向かい野球観戦していた。ビールに枝豆をつまみながら、本当に嬉しそうに野球を観ていた姿を覚えている。
野球が観たい父と、チャンネルの取り合いですさまじいケンカをしたこともあった。
だが、私が18の頃に実家を離れ一人暮らしをはじめてからは、当然ながら、父がテレビを観る姿を見ることもなくなり、
結婚してからは、遠く離れた実家に帰るのは年に1、2度程度となった。
「野球、一緒に観てあげてもよかったかなぁ」なんてあの頃の自分に苦笑しながら、クリーニング屋のおばあちゃんが伝票をだすのをぼんやり眺めていた。
「じゃあ、お願いします」と店をでる私に、おばあちゃんが次回お得になるチケットをくれたので、お礼を言い店をあとにする。
夕方の空は、橙色と赤がグラデーションになって、仕事帰りの人たちの顔をほんのり染めていた。
きっと、これからもっとこの町を好きになるだろう。
今日、久しぶりにお父さんに電話してみようかと思う。