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幸福はテーブルにあり

「役者は向いてない、あんた食い意地が張ってる」
これは、十数年前に行った銀座の占いで言われた言葉である。

この一言だけで、占いは終了。
支払ったのは、3000円。

当時の私は、関西から上京したばかり。女優で活躍してやるんだ!と息巻いていた。

まぁ、リュックを背負った化粧っ気もない、見るからにオノボリサンの私の足元は、しっかりと見られていたんだと思う。それに、当時の私は、銀座という場所がもつ高級感や人に完全にのまれていて、結果がどうであれ、その占い師に「はい」「そうですか」としか返事ができなかった。

そのあと、わかりやすく自暴自棄になり、吉野家の牛丼とコーラを買って家で勢いよく胃に流し込んだ。

こんなときでも、牛丼は美味いなぁと思ったものだ。

私の心の傷口をコーラが消毒し、たれがかかった牛丼の肉が絆創膏のように私の傷にフィットしていく。

その占い師に言ってやりたいことは沸々と湧いてきたのだが、
本当は、私は自分に怒っていた。

「役者に向いていない」と言われたことより、
「食い意地が張ってる」と言われたことにショックを受けている自分に衝撃だったのだ。

3000円もだして、食い意地がどうのなんて言われている自分が情けなかったが、認めたくない...認めたくなかったが図星だった。

私は、本当に食べることが好きだ。

料理を作ってテーブルに置いた瞬間には、もうすでに「よし、このおかずから箸をつけよう」と頭のなかで考えているし、祖父が亡くなったという知らせが入り、急いで新幹線に乗り込んだときも、コンビニで買った
シーチキンマヨおにぎりを、号泣しながらもちゃっかり食ってた。こんなときでも、腹はへるんだなぁと日記帳に書いた覚えがある。

食い意地が張っている? 上等だ。

ズンと落ち込むことがあったときは、次にうちどれかをするといい。

1、天才的に相づちが上手い人間に話を聞いてもらう
2、美味いもん食う
3、美味いもんを食って寝る
4、美味いもんを食って泣く
5、美味いもんを食って屁をこく

これっきゃない。

ちなみに私は、1~5全部やる。

私の恋のバイブル。
ジブリ作品の『耳をすませば』で、
自分の将来に悩み、落ち込み、焦る主人公・雫に、地球屋の主人が鍋焼きうどんを作ってくれ、雫が、鼻水をじゅるじゅるしながら食べるシーンだってあるではないか!私もまた、このシーンを鼻水をじゅるじゅるしながら観ていた。

私たちには、「食欲」「睡眠」「性欲」の三代欲求が備わっているが、
そもそも食べることをしなければ、満足な睡眠、満足なセックスなんぞできやしない。

さて、今、まさに思い出してしまったのだが、
その占い師に、最後、私はこうも言われた。

「一生、食べることには困らない」と。

その言葉を聞いたのが、あんな若輩者のころの私ではなく、今現在の私だったらとても幸福なことだと解るのになぁと、ちょっと悔やまれる。


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