見出し画像

テレの権化?な島本和彦先生がとても強引な技でテレを消した傑作「デスパイ」


1.はじめに


ビックコミックオリジナル創刊50周年企画として15・16号に連続掲載され、話題となった島本和彦先生の「ストイック・バンパイヤ」

今までの島本和彦マンガはどこかに島本和彦先生のオタク的テレが残されていて、そのテレも島本和彦先生本人のキャラと共に愛されていた気がする。

そんな中で特有のテレを抑えて描かれた「ストイック・バンパイヤ」は新しい島本和彦マンガとして受け入れられた。

「ストイック・バンパイヤ」は主人公にストイックという能力……というか宿命を置くことでエロそうなシチュエーションからのエロい描写を抑えてオタク的なテレを出さないという巧妙なテレ消しをしていて、個人的にはテレをストイックという言霊に置き換えた作品だと思っている。

※ なにより設定の妙と、前編を続けると思ったのに後編が違う(けど同じ)ものになり、昭和の仮面ライダー的1話完結ヒーロー物になったのも「ストイック・バンパイヤ」の魅力だったが。

そんな島本先生が過去に描いた、オタク的なテレが抑えられた傑作がある。それこそが今回の主役である「デスパイ」だ。


2.あらすじ


「反社の、極道たちの秘密の麻雀大会。そこに現れた北海幾羅組の代打ち飛岡 剛。負けると命を失う代打ち仕事だが、人呼んで「無敵リーチ」と呼ばれる必ずあがるリーチで勝ちまくる飛岡。

だが飛岡には秘密があった。友人の滝河を殺され、その容疑をシャブ漬けにした飛岡の婚約者である滝河の妹に負わせた奴らを倒すため、彼は警視庁を離れてある存在のひとりになった。

そのある存在こそが「デスパイ」である!」


3.作品全部好きな物で描けばテレが消える?


トップ画像の表紙絵を観て欲しい。麻雀ケースを持ち、千点棒を投げる飛岡の姿……だが、やや不自然に光るベルトのバックル。そうコレはじっくり観ると(じっくり見なくても)藤岡 弘、氏の仮面ライダー1号変身ポーズなのだ。

藤岡 弘、氏だから飛岡 剛……だいたいタイトル自体「デスパイ」って命を懸けた麻雀な内容に沿ったように見えるけど、見方を変えると藤岡 弘、氏が主役の原作小松左京氏による超能力スパイアクション映画「エスパイ」(エスパー・スパイ)のパク……オマージュでは……

麻雀漫画誌(別冊近代麻雀)だから徹底的にノリノリでやったのか、島本和彦先生が煮詰まりまくってやったのかは不明だが、全編が島本和彦先生が大好きな作品のオマージュなのである。

途中で仲間になる松大陽作をはじめ、敵も怪鳥音にトラックスーツの男、空手と日本刀が得意そうな男などだし、飛岡をサポートする雀荘の名前は麻雀Amigoでマスターもとてもどこかで。流れる空気はなんとなく快傑ズバット……キメのポーズもどこかで、どこかで……

だがしかし、このマンガはオマージュを見て見ぬフ……受け流して読むと、とても真面目で硬質な素晴らしい潜入スパイアクションなのだ。

この島本和彦先生が好きなものを詰め込んでテレを消す技というのは、後の「ストイック・バンパイヤ」でのストイックという言霊でテレを消す手法につながる気がするのである。

4.奈々ちゃんスクランブル


「デスパイ」単行本の巻末には近代麻雀オリジナルで掲載された「奈々ちゃんスクランブル」が収録されている。

こちらはいつもの島本和彦作品でテレも色々と出ているコメディだ。父を探すために反社の人々にセーラー服と七対子(ニコニコ)と笑顔(ニコニコ)だけで戦う津森奈々ちゃんと、心配して銃撃戦をしながら奈々を追う刑事狭間の物語。

なんの脈略もなく「ナンノナンノ」ってセリフを入れて南野洋子さんの似顔絵を入れたり、雀荘がスズメだったり。もちろんエロ展開もない。

ラストの初出紹介ページで並ぶ飛岡と笑顔の奈々ちゃんの絵がとてもシュールである。


5.おわりに


島本和彦先生はオタク的テレを面白さに変換するマンガ家である。そのテレを存分に出して、自分(?)と自分のテレ自体を主役としているのが現在ゲッサンに連載中の傑作「アオイホノオ」だ。

マウント武士というエロにブレのないキャラの登場から島本和彦先生がテレからやや離れた、それで「ストイック・バンパイヤ」もという世間の感じもあるけど、どうなのか。「ストイック・バンパイヤ」は構想に時間かかってそうだけど。

でも、マウント武士こそオタク的テレが生み出した存在なのか。当時、アシスタントではなくとも、誰かにコスプレ等させていた可能性は……

「スカルマン」とかもテレがないだろって?いやスカルマンは正式な石ノ森作品だから……燃える!!女子プロレスはどうだったっけ……

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集