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どうしてか、どうしても。

最近読んだ本は、手にとったきっかけは様々だが、初めて読む作家の作品が多かった。
昔から知ってる好きな作家作品は馴染みと安心感があり、勿論例外もあるが、リラックスして読むことが出来る。反対に初めて触れる作家作品は、自分の好みに合うかどうか、これは賭けである。
何らかの賞をとっていたり、ネットで好評だったり、面白く実力ある作品であることは間違いないだろうが、好きかどうかはまた話が別だ。

一例を挙げると、西尾維新の『戯言シリーズ』。
西尾維新のデビュー作であり、シリーズ一作目の『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』はメフィスト賞を受賞しアニメ化もしている人気作品である。
面白いから!と勧められて読んだが、しかし自分には合わなかった。
トリックが理解出来ないわけではないし、文章が冗長でつまらないというわけでもない。不可解なところはあるにはあるが、それはこの作品に限った話ではなく、それこそが魅力と思えるものもあると分かっている。
だがなんとなく、文章が鋭利すぎるというか、容赦ないというか、攻撃的だと感じられるところがありそこが合わなくて、一作目はなんとか最後まで読んだが続けて読もうという気になれなかった。
これは個人的な感想なので、これが好きだという人の感想を否定するつもりは微塵もないし、実際売れに売れている作品なのだから好ましい人のほうが絶対的に多い証拠でもある。

また、読む時期というものも大いに影響を及ぼすと思う。
ナルニア国物語やゲド戦記などの海外ファンタジー小説などは、子供向けにちょっと飽きを覚え始めた年頃が背伸びして読むから夢中になるのだろうし、先日読んだ『赤頭巾ちゃん〜』なども、まさしく受験を目前にした青春期に読んでいればまた違った感想を持っただろう。

そうした時期や一時の個人的ブームを飛び越えて、いつでも何度でも読み返してしまう『我が心の一冊』というものが、誰しもあるだろう。
一冊にとどまらず、あれもこれも、と挙げる人もいると思う。むしろ一冊に絞るのはなかなか難しい。
本棚の整理をしながらついつい思い出して読み出してしまい、一向に作業を進ませない一冊であり、幾度大掃除や引っ越しをしようとも、常に本棚の隅にちょんと鎮座まします一冊である。
勿論、自分にもその一冊はある。
しかしそれは、決してポジティブな『我が心の』ではない。むしろ逆なのである。

先にネタばらしをしよう。
その一冊とは『月山』(1973年、森敦著)である。

1974年に第70回芥川賞を受賞し、当時62歳の森敦の”老新人作家”デビュー作として話題となったらしい。
ちょっと記憶が曖昧だが、おそらく中・高校生あたりで教科書に載っていたのが知ったきっかけだと思う。
以来、この単行本はもうずっと我が本棚の一角に陣取っているのである。だが一度として読破出来たことがない。

理由は単純、なんか難しいからだ。
幾度となく今度こそ、と手に取り読み出しているのだが、数十ページ読んだところで「ダメだ…無理、分からん、しんどい」となってしまう。所持しているのが古い文庫で、活字が小さいのも一因かもしれない。
移動時間が長い旅行には一、二冊本を持っていくのが常なのだが(最近は電子書籍の場合も多い)、やはり最後まで読めた試しがない。

ここまでして読めないものはもう諦めたほうが良いと自分でも思うのだが、半ば意地のような、謎の執着のような、はたまた愛なのか、今に至るまでどうしても手放せない一冊である。
最初の数十ページしか読めていないので、この作品の魅力などは分からない。書評はどれがネタバレになるか分からないので下手に手は出せない。だから感想などは言うまでもなく述べられないのだが、しかしこうも長き(二十年くらい?長いのか?)に渡って一人の人間に取り憑くこの作品は、多分ものすごいヤツ、なんじゃないだろうか。

読んでもないのに、まるで身内自慢のように語ってしまう、どうにもこうにも、これが『我が心の一冊』なのである。

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