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異世界から来た海老村の地球観察日記 第二話 ハンバーガー

夕暮れが街を染め始めた頃、トウマは大学の講義を終え、足早にマクドナルドへと向かった。頭の中は海老村のことでいっぱいだった。ハンバーガー、海老村は食べたことがあるだろうか。異世界にはハンバーガーなんてないだろう。どんな反応をするだろう。想像するだけで、トウマの胸は期待と少しの不安でドキドキと高鳴っていた。

海老村はトウマのアパートで、送られてきたばかりのゲーム機に夢中だった。カラフルな光が画面に反射し、海老村の真剣な表情を照らしている。新しい文化に触れる度に目を輝かせる海老村は、まるで好奇心旺盛な子どものようで、トウマはその無邪気さに何度も心を奪われていた。ただ見つめているだけなのに、胸の奥がじんわりと温かくなる。幼いころに事故で亡くした弟、どこか似ていて海老村に複雑な思いを抱いていたのだ。時折この感情をどう捉えればいいのか分からず、戸惑ってしまう自分がいた。

「ただいま」

マクドナルドの袋を掲げて入室すると、海老村はゲームのコントローラーを握ったまま顔を上げた。その瞬間、画面の光から解放された海老村の表情が、トウマにはいつもより美しく見えた。

「おかえりなさい、トウマ。それは…?」

海老村の視線は、マクドナルドのロゴが描かれた紙袋に注がれた。その視線を感じ、トウマは少し緊張した。海老村に喜んでもらいたい、そう強く願っていた。

「これ、ハンバーガー。地球のファストフードの定番なんだ。海老村もきっと気に入ると思うよ」

テーブルの上にハンバーガーとポテト、そしてコーラを並べる。海老村は初めて見る食べ物に、眉根を少し寄せた。その表情が可愛らしく、トウマは思わず笑みをこぼしそうになるのを堪えた。

「これは…なんだ?この奇妙なパン。そして挟まっている…これはなんだ?」

恐る恐るハンバーガーを手に取り、匂いを嗅ぐ海老村。その仕草の一つ一つを、トウマはまるでスローモーションのように感じながら見つめていた。

「…不思議な匂いがする。これは食べられるのか?」

少し不安げな海老村の声に、トウマは胸がキュンと締め付けられた。

「大丈夫だよ、美味しいから。ほら、一口食べてみて」

トウマの言葉に促され、海老村は恐る恐る小さな口を開けてハンバーガーを一口かじった。その瞬間、彼の表情がみるみるうちに変化していく。驚き、戸惑い、そして喜び。その変化を見逃すまいと、トウマは固唾を飲んで見守った。

「これは…!?」

肉汁とソース、野菜のシャキシャキとした食感、そしてバンズのふわふわとした感触。様々な味が口の中に広がり、海老村は無言でその未知の味を味わっていた。その表情は、まるで宝物を発見した子どものようで、トウマは見ているだけで胸がいっぱいになった。

「どう?美味しいでしょ?」

トウマが穏やかに尋ねると、海老村は少し顔を赤らめ、ぶっきらぼうに言った。

「ま、まあ、悪くない。こんなもの、いつでも食べてやってもいいぞ」

ツンデレのような海老村の反応が、トウマにはたまらなく愛おしかった。海老村はあっという間にハンバーガーを平らげ、ポテトにも手を伸ばした。その無邪気な姿を見ていると、トウマの心は温かいもので満たされていく。

「次は…ポテト?これも食べてみるか…」

海老村はポテトを一本つまんで口に運ぶ。カリッとした食感と塩味が気に入ったのか、彼は小さく頷いた。その表情に、トウマは言葉にできない幸福感を感じた。

その夜、満腹になった海老村は、初めて食べる地球のジャンクフードについて興奮気味に語り、トウマは静かに、しかし海老村の言葉の一つ一つを心に刻むように耳を傾けた。窓の外には、夜空に輝く無数の星々が煌めいていた。異世界から来た海老村と、地球人のトウマ。二人の間には、名前のない、しかし確かな温かい感情が流れていた。そして、トウマの心の中に芽生えた感情は、夜空の星々のように、静かに、しかし確かに輝きを増していくのだった。

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