こんにちわんこ
犬がしゃべれば人魚姫だってしゃべれなくなるかもしれない。
つまり、魔法が『ある』。
数馬は頭を抱えて柴犬と向き合う。
「カズマ、散歩は?」
「いやいや。黙ってくれ。お願いだからもうやめてくれって。ダメだ。ムリだよ。そんなオマエじゃ連れてけないだろ!」
「なんで? こえしてやって話せてうれしいよ俺。カズマ、なーカズマぁ」
「あーはいはい。それはわかった。もう充分にわかったから!! んなことよりもしゃべるのはよせって……」
「なんで? やっとしゃべれて」
「いやそりゃうれしいわ! 誰だって夢だよ! だけもな、……つうか魔法? 誰だ、どこの女だって?」
「夜に。そんなに言いたいなら言わせてあげるって。メスのおおきな……カズマたちでいうところのママのママのママのママのママのママのマ」
「呪文かそれは」
「ママだよ! それくらいおっきい! おっきかった。あんなに大きいの、散歩の途中にあるあの白い場所、木が……あのおおきな木ぐらいしか俺知らない」
「……あ、神社の御神木か? ……あそこのアレなら……樹齢が確か……1000年は」
まじめに言ってから、数馬はやっぱり頭を抱えた。そんな。こんな。ウソだろ!!
「いやいや。いやいや」
「いや? 俺がしゃべるの……? カズマに大好きって俺も言いたかった」
「あ、ちが。ありがと。それはありがとな。そっちはぜんぜんイイんだ。ありがとうな!! こっちだって大好きだよちくしょうもーーーーなんでしゃべれるんだよオマエーーーー!?」
「だから魔法」
「そんなん知らんわ!!」
ペットの柴犬を抱きしめて部屋でごろんごろんと転がりまわる。これが幸せな、極上の時間、人生において奇跡。まさに魔法であるとは知っていた。
こんなこと、起こるはずがないからだ。
それにしたって、と、数馬は嘆いた。幸せの渦に巻かれて混乱しながらしゃべる柴犬に、顔をうずめながら呻いた。
「こんなん、アリかよ……。反則だろ……って……うそじゃん、魔法なんてウソだったはずじゃん、うそだろおいっ」
「カズマー?」
「あーごめんごめん。なんでもねぇ。だいすき。大好きだよ、ポチ!!!!!!」
やけくその絶叫を、とあるところから、とある悪魔、あるいは美女、魔法使い、メフィスト、やっぱり悪魔、そんなものが、くすくす笑いながら、水晶玉を通して盗み見していた。
呟く。これだから……
「魔法って辞められないのよねぇ!」
END.
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