とある死について(メモ)

初動は、凄惨な殺人事件として。

鑑識が進むにつれて、どうやら、これは自殺であって、加害者は被害者であるらしいと判明した。こちらは、刑事たちの語りぐさになった。

「なんだってあんなむごい死に方を」

「自分が憎かった……とか」

「異常者を考えたってムダムダ。精神科に通院記録もある。錯乱してたのよ」

「でも先輩、だからって自分をめった刺しにしてそのうえ首吊りまでして、しかもビルから飛び降りますか? 新宿のド真ん中ですよ。ネットじゃ陰謀で自殺に処理されたって書かれて……すべての場所に彼一人の指紋とDNAしかでなかったのに」

「言わせとけ。あんな目立つ場所で大衆に見せつけながら自分を公開処刑したんだ。写真も動画も出回りすぎてて今さらアレが自殺なんて誰も信じんよ。おれだって、こんなヤマは初めてだ」

「解決してますけどね。自殺で」

報告書をすばやくパソコンにうちこみながら、綾の指導刑事は、嘆息を吐く。

「マスコミも、自殺だったと素直に書けばいいのに。週刊誌はやっぱバカ」

「家族は、先に全員死んでるんだろ。こういうヤマはずっとくすぶるもんだ」

「……なんだか幽霊にでも取り憑かれたみたいな殺され方、って、最初わたし思ったんですけど。でも自分であんなに騒ぎを起こして……復讐とか……」

「忘れたほうがいいぞ」

「同感。次にひきずらないこと、覚えなさい。綾野」

はい、返事はするが、宮島綾野はまったく同感してはいなかった。
むしろ、反感を覚えた。

署を出たのち、ネットで噂されている、例の男の足取りをSNSで確認する。
次々に家族が怪死をとげて遂には自分もあんな死に方だ。

ただ、綾野は、はじめに現場に駆けつけた警官であった。

「……あの男、笑ってたんですよ、せんぱい……」

凄惨な自殺現場に似合わぬ、無数に穴を開けたカラダの持ち主とは思えぬ、奇妙な表情で男は死んでいた。
数分の後に、筋肉がほぐれて、首吊り死体にありがちな顔つきとなった。だから、あの不敵な笑い顔は、綾野しか見ていない。

無かったことに、できない。

綾野はあの表情を思い出し、ネットに噂されている、自殺者の足取りをイチからたどることにした。最初に飼い犬が死んでいて、どうもそこから何かがはじまったようだ。
次々に、家族が死んでいった。

想像もできない。どんな心境か。ただ、これで笑って死ぬなんて、それは有り得ない。父と母を幼少期に事故で失っている綾野は、天涯孤独の辛さを知っている。

笑うなんて、ありえない。
あんな自殺の仕方も、ありえない!

「……有給休暇を使えば、長野県に3泊はできる」

連続死の直前、家族旅行にでかけている。
港町。人魚でもでそうなスカイブルーの海と入り江が観光地になっている。そこになにかがある気がする。

綾野は一歩目を踏み出した。

この世とあの世、両方に別れを告げる、地獄のはじまりであった。そこにいる生者は綾野ひとり、そうと、すでに決まっていた。


END.
(長編のメモネタです…!)

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海老かに湯
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