男のカワイイの期限

男は老けると味が増すからいいよね、そう言われると三幸はピリリときた。

三幸は、本来はもっとヒトに嫌われてもおかしくなかった。しかし三幸はポジションを得ることに成功できたのだ。

男性でも、ドジをしたり、愛嬌で生きていける。 

年上に可愛がられたり、女性と女友達みたいになれたり、『うまい』生き方ができる!

けれど、男性にとっての愛嬌は、残酷だ。女が年齢を気にするのと同じだった。気づかれにくいけれど。

(おれも、そろそろ歳が……)

ドジっ子が許される、年齢は、制限がある。愛嬌でなんとか切り抜けるには、年齢制限がある。
オジサンがそんなことやっても気持ち悪いのだ。

それがシブいオジサンならまた違う味が出るが、三幸はそんなことはできない。そういうことができる、強い男性ではない。

だから、弱い、女の子みたいな弱さと愛嬌でいくつものピンチを切り抜けてきた。
結果、待っているのは、年齢制限であった。

三幸は思う。これなら本物の女性のほうが、まだマシだ。女性はずっと女性のままなのだから。

でも、『女性のふりをする』のは、男性にとっては年齢制限が厳しいのであった。
人魚姫の淡い恋みたいに。
短くて、いずれは泡になるのだ。

そろそろ顔も老けてきて、オジサンらしくニオイもするような気がする。女をまねして愛嬌で生きてきた自分が、

『きもちわるいおじさん』

に、なってしまう、賞味期限が目の前だ。

しかし今更、強者の男になんてなれない。なれているならとっくにそうしている。
三幸は、カガミの前で、ヒゲを剃りながら、つるつるにしながら老けてきた面を眺める。泣きそうな情けない男の表情があった。

「……どうやって生きろッてんだよ……」

女ではない。男らしさ、一般的にそう言われることから、ずっと逃げてきた。でも女ではない。

男の愛嬌と、女らしくして年上に甘やかしてもらえる若者の賞味期限は、もう、切れる。

三十路をなかばに、三幸は、自分の人生はもう終わったかのような閉塞感に支配されている。女がうらやましかった。またネットで憂さ晴らしに女叩きをしてしまうかも。

長く着用してきた、女の着ぐるみが、もう着られない年齢になってしまって単なるオジサンになる自分が、憎たらしい。

(女はいいよな。何歳になっても、女なんだから)

三幸は、鬱々とカガミにいるおじさんと、女々しいだけのおじさんと、長らく向かい合った。

(……きもちわる)

可愛こぶることは、もう、無理だ。
年齢制限がきっつい!


END.

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海老かに湯
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