食糧難ディストピアからのゾンビ世界への変遷(たんぺん怪談)
人類はふえ続けた。無限大かと思われた。けれど地球は大きさが決まって、地球における命の配分では人類は1%にも満たない。それでも増える人類は、ついに食べるものがなくなった。
ある学者は言った。食べるものがないのなら、食べなければ、いいじゃない!
民俗学者の彼女は不老不死とされる世界各国の人魚伝承を研究している。はじめは皆、この食糧難でまたトチ狂った者がテレビにでてきた、芸人か? という反応。けれど、今年で50歳を超す彼女は非力な小娘などではなくインナーマッスルの概念で語るならばガチムチのムキムキおばあさんであった。彼女は、研究に見込みがでてきたから、マリー・アントワネットが言い放ったとされる俗説に習ってこの言葉を借用してみせたのである。
果たして、世界初の人魚は『発見』された。
中国とアメリカが覇権争いをする現場。氷の溶け出した北極海にて、第一匹が釣り上げられた。一匹目はすぐさま解剖された。動物実験により不老不死の研究が試された。研究の目的は、やはり不老不死の探求なのである。
結果は良好。翌月には2匹目の人魚が釣れて、翌年には人魚の絞り汁やら肉片などをもちいた試薬品が完成された。薬は、寿命の治療薬である!
翌々年には、莫大な料金で一般販売された。しかし女研究者は早々にこちらの商売は潰された。人魚を釣り上げる連中、密猟に参加する連中が蔓延してもはや手がつけられない。あらゆるギャング、金持ち、国家の暗躍舞台と化した北極海。そうして、人魚を使いきった特効薬は、次第に一般人でも入手ができるまでにハードルがさがっていった。
その頃、第1世代に変化は起こる。
たしかに不老不死。細胞は死なず、老化はストップした。
したが、食欲は変わらなかった。人魚薬によって老人は死なず、増えるばかりになり、食糧難はいよいよもってして最終局面を迎えた。人魚薬を飲んだ者たちによる、食料戦争である!
誰かか戦地のどさくさで相手国の人間を…、空腹のあまりに……、それが最初と噂されている。ともかく、人類は、死なない者同士となって、ついに死なない者同士でのとも食いへと、禁忌領域へと足を突っ込んだ。腹は減るので食べたいから、人類はあふれるほどだから、食べるのにもってこいなのも人類になるのだった。
人魚研究の第一人者だった女史は、自分の日記に後悔を記すことになった。誰も死なないユートピア。それが彼女の理想だったのだ。
今は、人間のカタチと人間の頭脳を持った不老不死者たちが、人類にかわって地球を支配するようになった。人魚薬を飲んで不老不死となった人間たちに行き着く先は、ゾンビの世界だったのだ。ヒトが工夫と勢威をこらして相手を食う算段を立てては食うべく躍起になる世界。地獄がこの世界に舞い降りてきた。もはや、安全な場所など死後の世界ぐらいなものだろう。世界はゾンビたちによって荒れ果てた。
パンデミックではありませんね。民俗学者学者はテレビで、沈痛な面持ちで解説した。
「私たちは生存本能が強すぎました。みなさん、もはやゾンビ映画は現実ですよ。ゾンビになっている者となるまいとあらがっている者は見分けることは不可能ですから、相手は基本、ゾンビと思ったほうがいいでしょう。では、皆さま。少しでもよい終末を」
女史は、自ら命を断った。不老不死でも事故死や食われての死亡は存在するのだった。主に首を絶たれれば神経断絶により死亡する。彼女の葬式はおこなわれたが、死体が棺に本当に入っているか否か、誰かの空腹を満たすために使われたか否か、それはゾンビのみが知る。
END.
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