終わりは歩きまわる
この世の終わりを運んでくる、怪異としての彼女がいた。
彼女が登場すると、物語は終わりに向かってしまう。しかも悲劇性のあるものに。読者はいやな予感に襲われるし、作者は、彼女は彼女なので『そう』するしかなくなる。
しかし、彼女は魅力的だった。
美しいから。
出自の童話がきれいだから。
海のなかの幻想を絵に描いたような、うるわしい存在であるから。華やかであるから。そして、やっぱり、特殊な生きものだから、はっきりした特徴があるからだ。
『そう』なることを望む、望まないに関わらず、彼女が出現すれば、その未来は暗き暗黒にちかづく。
それすらも彼女の蠱惑的な魅力のひとつ、そう感ずる読者や作者もいる。ファンがいる。彼女は、だから、人間に親密に感じてもらえるように、半分だけはニンゲンのすがたをマネしているのかも知れない。
半分だけは違う。そこもまた、魅力だ。もし半分の配合が逆であれば彼女はきっぱりと化け物になれて怪物になれただろう。
しかし、彼女は、彼女と呼ばれるほど、決まって美しいのである。
その名すら、うつくしい。
人魚姫。
どこにでも、どんな創作にも、ひょいとすがたを現して、物語に不幸と終焉とを漂わせる美女らしきすがたの、怪異。
しかし、多くの者に好かれている、魔性の怪異である。間違いなく。
END.
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