お味噌汁の夢を診て
診てください先生、はりはりした声と出されるものは、患者室408に入った新患の「今、食べたいお味噌汁」だ。
プラトレイにプラスチックの器とスプーン、ほかほかの湯気、ここがいちばん美味しいと患者たちはのちに口をそろえる。ほんとうはお味噌汁の器くらい木製にしたいが、衛生面、洗浄をかんがえるとプラしかない。
「独創的だね」
「これは彼女が考えたもの?」
「お母さんのレシピかな、どこかの料理研究家かバズレシピを書いてるひとらのモノマネかな」
「ええそう言ったんですよ。お味噌汁にプチトマトとバジルなんて。お豆腐がでも意外にあってるんです、先生」
「一緒に作ったことはないようでした。お母様からです」
「母レシピパターンです」
母レシピ、とデジタルメモを画面に貼る。「ふうむ」「どうでしょうか、先生。初診のほどは」
「入院してまで母の味を追い求める。なかなか依存傾向が強いよう見受けるね。プチトマトの味噌汁を誰かに見せてうれしそうだった?」
「どちらかと言いますと恥ずかしそうでした」
「やっぱり」
今度はパソコンに打ち込まず、変わり者の医者は心にきっかりとカルテ更新を刻んでみせる。ひとりで納得しづくした。「週明けの往診は依存からの脱却ケースを適用させよう。味噌汁から診たらほかの薬よりもよっぽど効果があると言える!」
メンタルクリニック。かつ、お料理教室を営む、三ツ井豊水先生の、得意の一声をもって、『お味噌汁 初診 初回』は、締め括られた。
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