鳥殺される前野

前野くん鳥にとりころされるんだって。伝言ゲームの失敗作みたいに前野の噂は伝播する。鳥になるんだって。なにそれ。ついにはそんな話まで堕ちた。

前野は鳥を、ハトを、おもちゃの銃で撃ち落とすあそびにハマっていた。小学6年生としては、まあ特別にきわめて異常というわけではなかった。小学6年生なのだから。子どもは人魚姫の童話で笑うくらいのいきものであるから。

ただ、前野が撃ち落としたハトは、とくべつなハトだった。
それこそ人魚姫のような。

とくべつ、ただ一匹、唯一の由来を持つ、魔法をすり抜けてこの世でハトをやっている、平和の象徴そのものだった。
前野は、ハトたちのとくべつなお姫様を殺害したのである。前野には知る由もない不幸の始まりであるが得てして不幸とはそうしたものだ!

ハトの逆襲がはじまった!
糞は落とす、頭に落とす、ベランダに落とす、玄関に落とす、フンまみれの生活をまず贈った。それからハトは突くようになった。脳天をどすり。ぷすり。がつん。ハトの無限アタックである。

その後は繰り返し、所詮はハト……。だが人間一匹を破滅させるにはこの程度で十分た。

前野は孤立した。ハトに憑かれてるよ。いや突かれてるよ。いや落とされてる、糞。ヤだわぁ、汚えやぁ、アッと言う間に人権を失った。人権喪失はいがいとかんたんに完遂されるのである。小学6年生の世界である。

前野は、ひきこもるようになり、ハトたちは前野の家の前でずらりと並び、まだ玄関やベランダなどに糞を落としている。
前野家では、鶏、トリ肉を食すことが禁止になった。

それで収まる、道理はない。もちろん。ハトだってそんな懺悔は知る由もない。


END.

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海老ナビ
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