人魚ミイラのすがた!
エルフ、花魁、容姿端麗が常なるものとされる者たちはいる。人魚姫たちもそんな姿が常とされる種族だった。エルフに似ているが、こちらは不老不死という生まれつきのアドバンテージがおおきい。
が、どんな世界でもはみだし者、弱者はいる。人魚姫たちは無邪気だから、おおっぴらに指差すなどしてその者をあざけった。
つまりは、醜い者を。
「しわくちゃ! あんた、お婆さんみたい」
「皺がある。なぜ? なぜ醜いの?」
「やだ汚いわ。近寄らないで。人魚姫のくせして醜いだなんて、本当はあなた、イカかなんかの化け物なんじゃないの」
美しい者たちがくちぐちに口汚く罵る。美しさは、本性にまでは影響しないものなのだった。
人魚姫たちのイジメはエスカレートすることがある。気に入らない行動を見咎める、魚たちに人魚姫だからとちやほやされてる場面などを見つけたときに人魚姫たちは特に醜い人魚姫に残忍だ。ヒソヒソと話して、皆でそれやっと毒気なく悪意たっぷりに、尾ヒレにぐちゃぐちゃにワカメを絡ませてから岩礁のうえまで突き上げる。日干しだ。
「あなたが人魚姫だなんて恥ずかしい」
「こっちに居た方がいいわ。お似合いのすがたになるわ」
「干からびちゃえ!! あははっ!!」
陽気に笑って、岩場のうえで藻掻く、醜く産まれてしまっただけの罪なき人魚姫を置き去りにする。こうなると人魚姫も最期だ。不老不死といえど、乾燥しきって乾物と化してしわくちゃにちぢんで、生命活動が終わる。
人魚姫のミイラはそうしてできあがる。カサカサにちぢんで乾燥しきったあとで風などに飛ばされて、それが陸地に打ち上げられることもあった。
ミイラがあまりに醜いので、それは、猿と魚を縫ったもの、見世物小屋のおもちゃと見做された。ほんとうな訳がない。だってこんなに化け物のすがたをしているんだもの。人間だって、そう判断した。
きゃあははは、海の彼方の深海より、美しき残忍な人魚姫たちの嗤う声が、現代でもかすかにこだまする。くじらの唄のように。遠く、遠くから。
最近、ようやく一匹、醜かっただけの可哀相なに人魚姫のミイラが見つかったそうだ。猿と魚の縫合製品以上の可能性があるという。
人魚姫たちの評判が地に堕ちるまで、あとすこし。
ミイラになった化け物が人魚姫と呼ばれる者に戻れるまで、あと、すこし。
END.
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