『ディストピアSF論』:第5章「労働解放ディストピア」とは?
人間を労働から解放した社会はユートピアに見える…が、本当にそうか? 労働からの解放と引き換えに人間は大事な「何か」を失っていないだろうか? 労働という単語から生まれたロボットは人間を生産活動から解放したが、人間は再生産できなくなる。
労働は人間が社会と関わる方法の1つである。労働の形を変えることは、社会の設計を変えることでもある。また、社会が変われば労働の形も変わる。ウェルズ『タイムマシン』で80万年後の人類は資本家と労働者の末裔種に分離した。労働はしなくてよい、ただし…。
現代社会ではSNSやウェブサービスを通して、私たちは半ば自発的に個人情報を提供している。情報と引き換えに無料でサービスを受けられるのが現状だが、もし情報提供と引き換えに労働が免除されたらどうだろう? 小川哲『ユートロニカのこちら側』は、そんな情報特区の話。
論じた作品
カレル・チャペック『ロボット RUR』
H・G・ウェルズ『タイムマシン』
アンドリュー・スタントン(監督)『ウォーリー』
小川哲『ユートロニカのこちら側』
アーシュラ・K・ルグィン『所有せざる人々』