クッキーは残酷ですの研究

昔はよしとされたが今では不適切とされるもの。例えば大昔のテレビ番組で流されていた女性のオッパイ、一昔前のまんがでみられたスカートめくりや女湯の覗き見行為など。

このたび、今年10歳になる美東ハルカちゃんは自由研究にクッキー残酷論なる独学を選択した。研究のため、夏休みのうち2日に1日はクッキーを焼いた。イヌだったりネコ、ハムスター、お母さん、タマゴ、キリンにラッコにイルカだったりした。スマホアプリで撮影して、スマホ写真機でプリントアウト。研究帳に研究成果を貼って下側に実感を書いた。

『やっぱり、ざんこくだ。タイヤキを頭からかじるか、シッポからかじるか、ざんこくな悩みがあるが、おんなじだ。生き物のクッキーは神様の視点で考えるととってもざんこくだ。』

『なんで生き物の姿をうつして、それをたべるんだろうか? ざんこくだと思います』

『神様の視点からすれば、それは、とも食いだったり、相手の魂を食べてしまうという呪いであったり、しませんか?』

『クッキーをたくさん焼きました。たくさんの生き物を焼きました。たべました。こんな体験ができるお菓子づくりは、ざんこくだと思います!』

お母さんは、自由研究も後半にきて、ハルカの記録を読んで妙に感心するなどした。ちいさいのに、よくまぁ、いろんなことを考えるものね。その思想はともかくとして。

お母さんは、電車に乗って買いものに出たついでに、お土産を購入した。マーメイドのクッキーの型抜きを。

ハルカのお母さんはハルカのお母さんである。類は友を産んだ。お母さんは、マーメイドの型抜きを台所にコトリと置いて、ハルカにくすりと笑いかけた。

ハルカの自由研究は、方向転換をよぎなくされた。

『今日は、マーメイドのクッキーを焼きました。ざんこく……でしょうか? 神様。』

『ひじつざい。母さんはマーメイドをそう呼びました。ひじつざいのマーメイドは焼いて食べるのはざんこくですか? ふろうふし伝説があるマーメイドを焼いて食べるのは、お祈りのようなものですか? 長生きを祈って食べればいいんでしょうか?』

『わかりません。今日もマーメイドのクッキーを焼きます。』

後半戦はほとんどマーメイドのクッキーが出来上がることとなる。ハルカのお母さんは自由研究帳を読んでは面白そうにハルカにあれこれと積極的に疑問を投げかけた。母は子よりも強し。剛(ごう)の者、いや業(ごう)の者である。

ハルカの自由研究は、結局、終盤になってくねくねと迷宮入りしてしまった。マーメイドのクッキーばかり写真は並ぶ。

『わたしたちは、クッキーを食べることで、お祈りをしているのかもしれません。ざんこくじゃなかったです。わたしたちは、クッキーでいろんなものを食べながら、クッキーの生き物たちにお祈りをしているんだと思います。きみが大好きだよ、とか、こんなふうになれますように、とか。』

『クッキーを焼くのが上手になりました。来年もたくさん焼こうと思います。』

夏休みの自由研究が完成した。ハルカのお母さんが担任先生より誰よりも真っ先にハルカを褒めた。ハルカは天才ねえ!

「それに、クッキーがとてもおいしい。人間にとってそれってとても大切なことよ」

「そぉかな?」

ハルカは、お母さんにいっぱい食わされた気持ちがするから、胸がやきもきするから、来年の自由研究はもっとテーマを慎重に決めようと思った。今年はマーメイドのせいで、すっかりお母さんに乗っ取られてしまったから。


END.

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