奇妙なわるい夢をみてるよう

胸に巣食う、黒煙。夢の残滓はたいていの場合、不吉な予感に満ちていた。春風にすると。どうしてか目覚めると毎朝、くらい気持ちがする。

ただ、それは起き抜けの数分間の話だ。5分もするとあやふやになる。

それでも、不吉な夢だ。毎朝、とぐろまく黒煙を腹に抱えて目が覚めて、寝覚めの悪さに、ああまたか、と悪夢が連続している事実を数分間だけ再認識しては落胆する。記憶は、浄化槽にほうられて数分後にするりと抜けるとしても。認識できなくなるとしても。体に奇妙な侵食圧は刻まれて後味のわるい思いなどがした。

あるとき、名の売れた占い師が春風の手をとった。

前世を見るという。

「お前さん、おんなを反故にしてきたね。前世は何度も男だったけど、あんまりに女癖が悪いから、今生では女にされとるだけよ、お前さんは。例えば人魚姫にでてくる王子、ありゃ悪人でもないけど善人でもない、身勝手な男だろ。あんたもそういう奴だ。女になって、女の気持ちを勉強しなさいって言われてるんだよ」

「そんな。むちゃくちゃじゃありません? そんな前世の罪ってあります?」

「ほら、やはり身勝手な女だろう、お前さんは今も」

占い師がしたり顔などするから、春風は機嫌が悪くなる。
その、わるいかんじは、起きたての具合のわるさによく似ていたが、起きて数時間を経過した昼間の春風ではもう、知覚することは不可能だった。

結局、春風は占いを信じなかった。そこは、個人の自由である。



END.

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