水掻きのある少女
ちっちゃいころから、春華のてのひらに、指と指とのあいだには膜があった。うすくひらたい、皮膚だけの皮の膜だ。
まるで水掻きのよう、カエルのよう、春華はだから私って前は人魚姫だったりするのかしらなんて夢想した。水掻きがあっても不思議じゃないし、人魚姫ならかわいいし。
ところが春華が高校生になってとなりのクラスの春川くんに恋心を抱いたとき、春華は自ずから人魚姫の幻想を消去した。水掻きのようなてのひらを隠すため、こぶしをキュっとにぎる。
「……モモンガ。私ってきっと昔はモモンガだったワケ。だから、これはその名残かな」
幼稚園からの親友に、春華は告げる。忌々しそうに水掻きの手を握りながら。
そう、だって人魚姫だとしたら、恋が叶わないだろうから。
そんなデバフ、恋した少女には、無用なのである。夢と幻想なんて不要なのである。
END.
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