ロウソクのうきよ

空虚な人生と詩人は世を儚んだ。所詮は夢と現世の短さを憂いた。いっとき、浮世を楽しむにしては、長すぎるし、短すぎるし、生きる道の選択肢は多くて誰もが悩まずにはおれないことを哀しんだ。やはりここは浮世ではなくて憂世である、詩人はそう結ぶ。

流れにながれ、やがて詩は、風に乗って永劫を生きる妖怪の耳にまで聴こえた。

魚の下半身に、ヒトの上半身をもつソレは、奇妙な歌とはじめそれに対して思う。いっときの夢を素直に楽しめないなんて。夢の素晴らしさをわからないなんて。永遠の命をもつ人魚にすれば、人間の人生の時間は、夢に等しいものだ。夢なら夢と、思いきって楽しめばいいのにね? ソレは詩を否定して、あざ笑うにひとしく少しだけ微笑んだ。

その晩、岩礁にあがると、ソレは人間世界から持ち帰ったあるものを袋から取り出した。他の仲間がなぁにそれと尋ねるから、

「ロウソクって言うの。人間の造った、人間の分身みたいな、鏡みたいなもの」
「それをどうするの?」
「ロウソクが溶けて潰れるまで、先っぽの炎が消えるまで眺めて、人間になった気分を楽しんでみるの」

楽しそうね。ええ!
人魚たちは、陽気に笑い飛ばして、それからロウソクに吐息をふきかけて火をつけた。


END.

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