あの時泣けなかった私へ
新卒1年目、会社の先輩が自殺した。
彼は、10年以上勤務していて非常に人望も厚く、営業マンとしても優秀だった。
その期待もあり、彼は新規事業の立ち上げを任され、ほぼ会社に寝泊まりするような生活が続く中で、上司や社長から日々罵声を浴びせられながら対応していた。
「家が更新手続きできてなくて、引っ越さないと行けないんだけど家さがしてる時間なくて、ホームレスになりそう」
そんなことを笑って話していた。
彼がどんどん表情を失っていくことには気づいていたが、新卒1年目の私には仕事を手伝う力も、彼を少しでも励ませる力もなかった。
その日、彼は会社で自ら死を選んだ。
会社で起こったことに、社内ではまたたく間に話は広がり、40名程度のオフィス内には泣き声がこだましていた。
当時彼と付き合っていた先輩に事実を伝えたときのあの声はおそらく私は一生忘れられない。
心が壊れた時の叫びは、なんとも生生しく、いつまでも耳にのこる
その時、私はうまく泣けなかった。
私が彼と知り合ったのはたかだか半年ほどで、部署も違うため、コミュニケーションといえば、一度か二度他の人も交えて飲んだことがあるのと、私も終電近くまで残って仕事をしたり、休日出勤が多かったため、人気のあまりないオフィスで、軽く雑談を交わす程度だった。
私よりも彼の死が辛く、悲しい思いを抱えている人がいる。
そう思うと、私に泣く権利があるのだろうかと思った。
その後もしばらく、彼の死は渋谷の小さいオフィスの中に溢れていた。
私はひたすらに仕事をこなすしかなかった、彼の仕事の大半を私が引き継ぐことになったから。
その頃の記憶はもはやあまりないけれど、いくらでも動く表情筋が私の自慢だったのに、いつの間にかうまく動かせなくなっていた。
きっと、蓋をしてとどめた涙が、いつのまにか、氷のように、冷え切って、固まってしまったのだろう。
その後、私は会社をやめた。
それから幾年がすぎて、ある女性プロレスラーの訃報に触れた。
自分でも驚くほど泣いていた。
ただただ、悲しかった。
もちろん私は彼女にあったこともないし、ディスプレイ越しの姿しか見たことない。
でもそんな彼女に、私は自分を重ねて、笑ったり、怒ったり、悲しんだりしていた。
そんな彼女が、自ら死を選んでしまった。
あの彼女がもうこの世にいないという事実に、ただ涙が止まらなかった。
泣くために、権利なんていらない。
今、悲しいと思っている心があるなら、ただ泣いていい。
すぐに前を向けなくてもいい。
彼女との関係性なんて関係ない。
悔しい、悲しい、苦しい すべて吐き出して泣けばいい
きっとその涙が、いつか次に進む一歩になる。
凍えて氷になる前に、
ながして
こぼして
またきっと前を向けると信じて
#RIPHanaKimura
心よりお悔やみ申し上げます。