雪山置き去り事件
ミステリが好きで、ついついタイトルに趣味をしのばせてしまう。見出し写真もミステリ感があってとても好きで使わせてもらいました。内容とはちょっと関係なくなってしまったけど…笑
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事件は私が大学1年生の冬に起こった。
サークルの先輩に、スノーボードに誘われた。スノーボード上級者が何名かいて、教えてくれるとの事だった。
スノーボード自体にさほど興味は無かったが、4月から参加しているサークル活動は私にとって刺激的な毎日で、とても楽しかった。新しい『大学生っぽい事』に対して、積極的になっていた。
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参加総数は20人くらいだったと思う。幹事がマメで、しおりを作ってくれていた。しおりによると、初日の午前中は3班に分かれ、一番手前の坂で初心者のレッスンを行うことになっていた。それぞれの班は教える人•それなりに滑れる人•初心者がバランス良く配分されているとの事だった。
夜行バスに乗って早朝に着き、ロッジで仮眠をとる。ウェアやボードを借りる。初心者はたくさん転ぶと聞いたので、クッションになるようおしりにタオルを詰め込む。
そして、私は生まれてはじめて雪山に降り立った。
「怖えええ…!!!」
それが最初の感想だった。
私を教える担当になったのは、1学年上の、まぁ仲は良い方の男子だった。(のちに告白されたのでこの班分けには含みがあったと推測せざるをえない。大学生っぽくて甘酸っぱいなぁ。)
まず、基本中の基本、木の葉滑り。怖すぎてボードを寝かせられず、ガリガリ斜面を削っていた。
その後2時間近く、木の葉滑りを満足にできるようにはならなかった。次のステップを教わるに至らないまま、午前中が終わった。
私と同じ班にはもう一人、雪山初心者Kちゃんがいて、2学年上の男子に教わっていた。(この二人は半月後に付き合い始める。もうほんと甘酸っぱい。)
Kちゃんも、午前中を終えた時点で、私と似たような仕上がりであった。
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昼食時、他の班の様子を聞いてみると、皆そこそこ滑れるようになったようだった。しかしあとで考えれば、私とKちゃん以外のスノボ初心者はみなスキー経験者だった。スキーもやったことない私たちは別枠にしておいてほしかったなぁ。
ご飯を食べ終えると、私たちはゴンドラに乗っていた。どうやら頂上へ向かうらしい。不安を感じながらも、みんなの楽しそうな顔に、ついていく以外の選択肢はなかった。
頂上について、ボードを装着する…え、なにこれ。さっきまでの斜面と、角度が違いすぎるんですが???
次々と出発する仲間たち。
教育係たちも、「俺は教えに来たんじゃない、滑りに来たんだぜ!!」と全身で表現していた。
そして、私とKちゃんは、ぽつんと、二人残された。
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「どうしよう…」
Kちゃんが初心者向けの迂回路を見つけ、二人でそこを進む事にした。拙い木の葉滑りで、少し滑る。スピードも出ないし(というか怖くて出せないし)、下手な滑り方なので、すぐふくらはぎが悲鳴をあげてしまう。うまく端の方に来れた時は座って休憩。二人並んで休憩すると邪魔なので、わりと孤独な戦いだった。
「木の葉滑り、上達してきたかも」
なんて励まし合いながら、途中のレストランを見つけたときに休憩がてら同級生の女子たちに電話をかけたり、メールを送るも、返事は無し。
とにかく、次の集合はスキー場入り口に17時。
頑張ってそこにたどり着くしかない。
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角度がありすぎる斜面は怖くて、私たちは、とにかく初心者用の長いコースを行った。時にはほとんど角度がついていない道もあり、板をはずして歩いた。
そして見覚えのある最初の坂へ到着し、そのリフトを登れば集合場所だった。
「みんなどこだろう?もうロッジにもどったのかな…、」
私たちはとにかく同級生に電話をかけまくった。
誰一人、出なかった。
時刻は17時30分だった。
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こんなことになると思ってないから、ロッジの場所もうろ覚えの私たち。かすかな記憶を頼りになんとか宿泊中のロッジを探し出し、部屋の扉を開いた。そして、その中にはすでに着替えを済ませた友人たち、先輩たちがいた。
「あれ?どこ行ってたの?」
その言葉に、私たちは部屋に入らず、無言で扉を閉じた。
部屋の外で、二人で泣いた。
言葉を交わさずとも、二人の気持ちは同じだった。
そこに現れた無神経男は、泣いている私たちを笑った。
こいつ、私の教育係のくせに…。
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ひとしきり泣いて、私たちは何事もなかったように部屋で着替えた。
夜ご飯では、友人が好きな人と同じテーブルになれるよう上手くとりはからって、楽しく鍋をつついた。
次の日、面倒見のいい二人の友人にしっかり教えてもらって、そこそこ滑れるようになった。その友人に誘われて次に行った雪山では、ターンもできるようになったし、スピードも出せるようになった。
私は、その後何シーズンも雪山へ通った。アイテムを買うほどではなかったけど、派手に転ぶのも楽しめるくらいにはなった。
Kちゃんが、2日目をどう過ごしたかはよく知らない。でも、その後サークルの雪山企画に参加することはなかった。
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あの日から、私は誰かを「置き去り」にしていないかどうか、そんなことが気になって仕方がない。サークルでも、遊ぶときも、仕事の時でさえも、みんながちゃんと同じように楽しめているのか?が気になって気になって。
それが今の私を形成していて、自分で自分が好きな部分でもあるので、悲しい経験も無駄じゃないってことですね。
そのことで傷ついた話もあるんだけど、それはまた後日書きます。