おじいちゃんの猫
おじいちゃんの家は、飛行機で一時間半くらいの場所にあった。両親も旅費を気にしてか、幼い頃から、年一回、夏休みに少し長く帰るくらいだった。
だから、おじいちゃんとも、おばあちゃんとも、あんまり話した事がない。会っても、人見知りな私から話しかける事なんてなかった。
おじいちゃんの家に行く最大の楽しみは、おじいちゃんの猫に会うことだ。
その猫は子どもが嫌いで、私が行くとすぐに逃げてしまうのだけど、ごはんの時には必ずおじいちゃんのそばにいる。私も猫を触る勇気がないのだけど、おじいちゃんの手からごはんを食べる猫を見るのが好きだった。
その猫は、私が生まれる前からおじいちゃんの家にいた。お母さんが里帰り出産して、生まれたばかりの私の足もとで、猫が丸くなってる写真が、私のお気に入りだった。
でも、自分のうちで猫を飼い始めてから、兄が中学校に入ったりして、猫を預ける先もないし、なんとなく、おじいちゃんの家には行かなくなった。
☆
高校生の時、その猫が亡くなったと聞いた。
19年も生きれば、長生きだ。
でも、おじいちゃんも高齢だから、新しい猫は飼わないことになったらしい。
☆
詳しくは覚えてないんだけど、それからすぐに、おじいちゃんは体調が悪くなったんだと思う。お母さんが、猫を飼わせてやったら良くなるかしら、というような事を言っていた気がする。
おじいちゃんが亡くなって、そのあとおばあちゃんの具合が悪くなった。大学生以降、お母さんが会ってほしいと言うから、なんとなくまた毎年一回、会いに行くようになったけど、向こうもボケているし、こちらも覚えてもらってるか不安だし、ほんとに、数分、会うくらいだった。
おばあちゃんもこの間亡くなった。
☆
もし今…今だったら、おじいちゃんに猫を飼わせてあげたい。子猫じゃなくて、保護されて行き先のない、大人の猫。私は一緒に住むか近くに住んで、猫の写真をSNSにアップするんだ。
猫を通して、おじいちゃんと、おばあちゃんと、仲良くなって…たくさん話をしたかった。
そうしたら、おじいちゃんも、おばあちゃんも、まだ元気だったんじゃないかって、そんな妄想をするんだ。だって猫のちからってすごいんだぞ。
おじいちゃんとおばあちゃんの未来が変わらなくても、そうやって何年か、一緒に過ごしてみたかった。
私がこんなに猫を好きなのは、お母さんが猫が好きだからで、お母さんが猫を好きなのは、おじいちゃんがすぐ猫を拾ってきちゃうからだった。
私のルーツを、もっと知りたかった。
今となっては叶わない、当時は高校生、大学生だったから、思いつきもしない。
そんな夢の話。
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