夢か現実か:映画「インセプション」
ー私の見ているものは夢なのか現実なのか。何をもって夢と現実を区別するのか。ー
ー私の思いついたアイディアは、果たして本当に私自身から生まれたアイディアなのだろうかー
映画を観終わった後、こんな問いを投げかけられるような映画でした。
今回はクリストファー・ノーラン監督の2010年の映画、「インセプション」についての記事を書きたいと思います。
この映画は私が一番好きな映画であり、定期的に観たくなります。既に10回以上は観ているのではないでしょうか。
この映画は夢の中で自由に動くことができる、いわゆる「明晰夢」ですが、以前私が明晰夢を観ようと失敗した話を記事にしたことがあります。
もしご興味持っていただけたらそちらの記事も見ていただけると幸いです。
なお、この記事では映画の内容について触れますので、ネタバレが嫌な方は映画を観てからか、それかまたの機会にすることをお勧めします。
あらすじ (ネタバレなし)
主人公のコブは「人の潜在意識」に潜り込み情報を盗む産業スパイとして、敵対企業の企業情報を盗むような仕事をしています。なお、この映画でいう「潜在意識」とは「夢」のことだと考えてください。
映画の冒頭でも主人公はある企業からの依頼を受け、敵対する企業の社長(サイトー)の夢に潜り込み情報を盗み取ろうとしますが、夢の主に「これは夢である」とバレてしまいます。
依頼を失敗した主人公は雇い主からの処罰を恐れて逃亡しようとしますが、逃亡直前でサイトーに見つかってしまいます。主人公の腕を買ったサイトーから「ある条件」と引き換えに、サイトーの敵対企業の社長の息子に「あるアイディア」を植え付ける依頼を提案されます。
情報を盗むのではなく、アイディアを植え付ける(Inception:インセプション)というのは産業スパイの間では不可能と言われていますが、主人公はその依頼を引き受けることを決めます。
アイディアの植え付けを実現するために主人公は様々な役割の仲間を集めてます。仲間を集めて入念なリハーサルを行った上で遂に計画を実行に移します。果たして主人公たちは無事にアイディアの植え付けを達成できるのか。。。
こんな人にお薦め
SFが好きな人
トラウマを抱えた主人公が頑張る展開が好きな人
豪華俳優が出演している映画を観たい人(レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、トム・ハーディ、キリアン・マーフィー、マイケル・ケイン、etc.)
夢と現実について興味がある人
アイディアがどのようにして生まれるかを考えたことがある人
インセプションを観て (ここからネタバレあり)
初めて観た時
この映画が公開されたのは2010年なので今から14年前ですね。
当時私は学生であり、あまりお金もなかったので映画館には行かずにDVDを借りて家のテレビで観た記憶があります。
映画を観終わってまず思ったのが、「DVDで観て良かったー!」です。
これは映像や音響に対しての感想ではありません。映画冒頭のシーンが映画終盤で回収された(繋がった)ので、すぐに見直して確認したいと思ったからです。もし映画館で観ていたら、「あれ?どんなシーンだったっけ?」となってしまい家に帰っても思い出せずもやもやしていたかもしれません。
DVDで観たのですぐに冒頭のシーンに戻って確認することができました。
クリストファー・ノーラン監督は映像や音響にこだわっているので、もちろん映画館で観ることは極上の体験になるに違いありません。
ちなみに2020年に公開された「TENET」ではちゃんと映画館に赴き、腹に響く重低音のサウンドと8mmフィルムの映像を体験することができました。(しかしTENETはインセプション以上に難解な映画だったで、動画配信サービスで公開されるまで考察に対する解がおあずけに。。。)
インセプションに魅了される理由:①設定
インセプションを初めて観た時から私はその全てに魅了されてしまいました。設定、ストーリー展開、キャラクター、音響。
まずは設定です。
主人公たちはターゲットの夢の中に潜り込みますが、さらに夢の中の夢の中の夢の中の・・・といった感じで夢に階層構造が用意されていました。アイディアを植え付けるためには深い階層まで潜っていかないとなりませんが、すべての階層の出来事が同時並行で進みます。映画を観ている最中は、「これって今どこの階層の場面だっけ?」となるので結構頭を使いながら観なくてはいけませんが、頭を使ってみる映画は非常に私好みです。
また、ターゲットの「夢に潜り込む」ために装置を使うことにより、科学的な面を持たせているところが良いと思いました。「夢に潜り込む」というと魔法や超能力を使いがちですが、この映画ではターゲットを眠らせてから装置により主人公たちと繋がりターゲットの夢に入り込むことができるようになっていました。
インセプションに魅了される理由:②ストーリー展開
次に魅力的なのはストーリー展開です。
サイトーの依頼を受けて仲間たちを集めた主人公は、計画実行のために準備します。何度も何度も時間をかけてリハーサルをし、準備万端になったところでターゲットにいざ接触、夢に潜り込みます。
と、ここまでは順調だったのですが、第一階層の夢で早速ピンチに陥ります。なんとターゲットは主人公のような産業スパイが夢の中に入ってきた場合に備えて特別な訓練を積んでいたのです。入念な準備とリハーサルをしてきたにも関わらず、訓練を積んでいるという想定を怠っていたため計画は早くも変更せざるを得ない状況になってしまいました。
滑り出し順調からのピンチというのが映画でよくある展開なので、良い意味で期待を裏切られました。あ、いきなりうまく行かないのねと。苦しい状況が続きますが、何とか切り抜けていくのがハラハラドキドキしてたまらなかったです。
そして、冒頭と映画終盤のシーン。
映画の冒頭シーンで主人公は砂浜に打ち上げられ、とある建物に連れていかれてからある人物と会話します。その後しばらくはこのシーンについて何も触れることなく物語が進みますが、終盤で虚無(夢の中で死ぬと行き着く孤独な空間)に落ちたサイトーがいる場所が再び冒頭の建物なんです。実は主人公は虚無に落ちたサイトーを救うために、自身も虚無に落ちたのでした。虚無に落ちた主人公は砂浜に打ち上げられ、といったところで映画冒頭のシーンにつながります。
このシーンを観た時、鳥肌が立ちました。これが伏線回収かと。ここで冒頭の良く分からなかったシーンに繋がるのかと。
何より映画のラストシーン。
この映画の登場人物は夢か現実かを区別するために、各々の「トーテム」というアイテムを持っています。主人公のトーテムは「駒」であり、駒を回して回転が止まらないと夢、回転が止まると現実という風に判断しています。
映画のラストシーンでは主人公が依頼を達成して家族のもとに帰りますが、家族と会う直前に念のため(?)駒を回します。駒の回転を見届けないうちに家族と再会し主人公はその場を離れますが、駒は回転速度は落ちますがなかなか回転が止まらないといったところで映画が終わります。
結局主人公は夢の中で家族と会ったのか現実で家族と会ったのかがわからず仕舞いという終わり方で、判断は観客に委ねるといった感じなのですが、それがまたたまりません。主人公にとっては夢でも構わないから家族に会いたいという思いがあったのだと伝わってくるシーンでした。
インセプションに魅了される理由:③魅力的なキャラクター
登場したキャラクターもそれぞれ魅力的でした。
主人公のコブは産業スパイとして夢に潜り込み情報を盗み出すプロですが、大きなトラウマを抱えています。その抱えているトラウマのせいで、夢の中で意図しない人物が登場し夢の中を引っ掻き回されてしまいます。高い能力を持っているけど制約がある主人公、とても好きです。
主人公の相棒のアーサーは個性的なキャラクターが登場する中、良い意味で一番の常識人でした。観客が最初に感情移入できるキャラクターかもしれません。
依頼主で大企業の社長であるサイトーは、何が何でも約束を守ろうとする義理堅い人でした。日本人設定なのも、我々日本人としてはうれしい所です。
ターゲットであるロバートは、一代で財を成した大企業の社長の息子です。仕事一筋の父とはあまり遊んでもらえた記憶がなく、親子仲も良いとは言えません。夢の中で親子仲が修復できた、というところまでは行きませんでしたが、少しわだかまりが解けて自分自身でこれからのことを決めようと成長できたのが等身大で良かったです。
どのキャラクターも魅力的なのですが、全ては紹介しきれないのでこのくらいにしておきます。
ここは夢か現実か。そしてアイディアの出どころは?
映画のラストシーンでは駒が止まるか止まるかわからない状態だったので、夢か現実かがわからない状態でした。私たちの今住んでいる世界は、今自分が見ているものはどうでしょうか。
映画の中ではトーテムで夢か現実かを判断できましたが、私たちが今見ているものを現実か夢かはどう判断したら良いのでしょうか。何をもって「夢」というのか、何をもって「現実」というのか。私は勝手に哲学的な問いを投げかけられてしまいました。
もう一つ、「アイディアを植え付ける」ということについても考えさせられました。果たして私が思いついたアイディアは本当に私自身から出てきたアイディアなのだろうかと。
さすがに夢の中で他人にアイディアを植え付けられたとは思いませんが、そのアイディアは実は元を辿ると誰かの影響を受けているのではないか。自分だけのオリジナルなアイディアというものは存在しないのではないか。
果たしてここは現実か夢か、私はオリジナルな思考を持っているのか否か。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?