水は究極の自治、足下への回帰を(現場の思いとして)

2025年1月28日、埼玉県八潮市内で埼玉県が管理する流域下水道の管路の破損に起因すると見られる道路陥没が発生し、市民に甚大な影響を及ぼしています。

陥没に巻き込まれたトラックドライバーの一刻も早い救出とともに、事態の収束が望まれます。事故対応において災害救助法が適用されたことからも、その影響の大きさは未曾有であり、多くの市民もその影響を実感する事だと思います。

流域下水道の幹線下流部に位置するシールド工で、布設された土被り10メートルを超える内径4750ミリの管路が破損したことの重大さは、全国の水の現場を預かる者であれば、誰もがその重大さを実感するところです。

当該事故においては、約120万人を対象とする過去に類を見ない下水道の使用自粛要請が出されました。単なる下水道の使用だけでなく、日々の営み・暮らしに及ぼす社会的影響の大きさは、連日の報道を見ても明らかです。

ドライバーの救出と陥没箇所と管路の復旧、そして汚水の輸送機能が失なわれたなかで、市民の衛生と水環境への影響を最小限とするべく、現場作業に奔走する方々の努力に敬意を表するとともに、これ以上の二次災害は絶対に招いてはならないと思うばかりです。

しかし、こうした事故が生じた中で、現段階においても収束の展望が不透明であるばかりか、原因究明すらもままならない現状にあることは、甚だ遺憾と言わざるを得ません。

何よりも本来、生命(いのち)と暮らしを守る「衛生」が責務であるはずの下水道が、市民の生命・財産を脅かす存在となってしまったという事実は、これまでの下水道インフラの整備、管理のあり方への反省を強烈に突きつけるものであることは間違いありません。

国土交通省においては、下水道管路の緊急点検を行うとともに、同種の事故を未然に防止するための有識者会議を設置するなど、当該事故を踏まえた対策を図っているところですが、管路に起因する大事故の発生は、事業の現場を預かる者たちが長年警鐘を鳴らし続けていた課題です。

水の現場の者たちにとってみれば〝遅きに失した〟との思いを強くしています。

今般の事故は下水道管路に起因するものですが、下水道だけではなく水道においても、その資産の大部分は地中に埋設された管路で、この地中に張り巡らされた管路が老朽化し、適切な管理すらままならない現実がいよいよ顕在化してしまいました。

近年、政府が水道・下水道事業の民営化を進めることに対して、現場からは長年にわたり現場労働者の人員削減が続いてきたことへ危機感、行き過ぎた合理化が招く施設管理のリスクを強く主張してきましたが、まさに訴え続けた危機が露わになったものと認識しています。

今般の事故を受けて2月15日には、埼玉県から国土交通省に行った要望において「国が進めるウォーターPPPの再検討と下水道事業の国庫補助要件からの除外」を求めています。

下水道・水道ともに、今見つめるべきは足下にあります。

水循環基本法の目的とする健全な水循環の維持、回復、我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上に、下水道・水道が果たす役割が大きいことは言うまでもありませんが、健全な水循環が社会インフラの足下から崩壊している事実を受け止めた政策の方向性の転換を強く望むものです。

埼玉県の流域下水道は、大阪府に続き全国で第二に長い歴史を有するものです。流域下水道の整備にあたっては、古くからその管理に懸念が示され、論争ともなったところです。

ひとつの下水道管路の破損の上流に下水道の使用自粛を強いられた12市町、約120万人の暮らしが存在し、緊急放流としてほぼ未処理の汚水が公共用水域に放流されました。

全日本水道労働組合に象徴される水の現場の労働者たちは、「水は人権であり、自治の基本」であることを強く訴えてきましたが、今般の事故は、自治における汚水処理のあり方を再考するうえでも多くの教訓を与えているように思うところです。

行き過ぎた利益の追求や合理化、長大なインフラ整備がもたらした弊害としてこれを直視し、市民・エンドユーザーに寄り添った地に足の着いた上下水道政策、水循環政策への転換を強く望むものです。

まずは国民、その地域の市民・エンドユーザーに水道・下水道に対して興味・感心を持ってもらうこと。国会議員・地方議員の皆さんには議会でしっかり議論してもらうこと。また、地方自治体においては、現場で働く人や住民などの参加による地域会議や有識者会議など、開かれた議論ができる場所をつくること。

今回の事故を機に、急ぎそんなイメージを持ちつつ、持続可能な未来の水インフラについてみんなで考え話し合える場が増えることを願っています。

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