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アイコンは文字を超えることができるのか?
ゆめみのデザイナーたちと活動している視覚伝達情報設計研究室(通称、視伝研)にて、今や誰もが日常で目にしないことはないだろう『アイコン』について研究を行った。
まずはメンバー全員で「アイコンとは何か?」という漠然とした問いから情報収集を進め、だんだんと輪郭が見えてきたタイミングで、各メンバーごとに深堀りしたいテーマを定め、個別研究を進めた。
その中でも、僕は『アイコンと文字の関係性』というテーマで調査・研究を行ったので、その内容を以下でご紹介したい。
同じ視伝研の他メンバーの研究内容はこちら↓↓
アイコンとは万国共通の文字なのか
現在、世界には3000種〜5000種ともいわれる言語と、400種にも及ぶ文字の存在が確認されているという。
文字は、それぞれにルールがあり、歴史がある。その形だけ見てもとてもユニークで、使用される地域ごとの個性を感じる。
一方で、空港のサインや道路標識、電子製品の取扱説明書に使われているマークなど現代の絵文字とも呼べるアイコンは、各地域ごとの文字と一緒に併記され、地域を問わない万国共通の文字として広く扱われている。
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これらのことから、「もしかして、アイコンはある種の万国共通の文字と考えることができるのでは?」と仮説を立て、アイコンと文字の違いについて調べてみた。
アイコンの万国共通文字構築プロジェクト
まずは、身近なところでの世界のアイコンに対する取り組みについて、調査を行った。
アイコン自体は紀元前から存在するが、近代の日本では1964年の東京オリンピックでピクトグラムが大規模に導入され、視覚的なコミュニケーション手段として非常に重要な役割を果たしたことが有名だ。
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また、Noun Project(https://thenounproject.com/)というプロジェクトではアイコンをグローバルな視覚言語として位置づけ、世界各国のデザイナーからアイコンのコレクションを広く受けつけている。
このプロジェクトに投稿されたアイコンは CC BY 3.0 US として扱われ、クレジット表記とリンクを設定すれば、再配布・改変・商用利用が可能な限りなく自由に使うことのできるアイコンとして配布を行っている。
さらに昔のアイコンの役割を考える
一方、アイコンに近い、いわゆる「絵文字」的な文字は古代から使われている。むしろ「絵文字」は原初の文字として、象形文字やヒエログリフなど多く使われる文字システムであった。
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以前、視伝研の研究の中で調べたマヤ文字も一見文字には見えないとてもユニークな文字である。
これらの文字は大半が文字システムの中で表語文字として「意味を伝えるための文字」に分類される文字が多く使われている。表語文字と対となるのは表音文字という「音を伝えるための文字」となる。
あらゆる文字システムでは、表意文字と表音文字はグラデーション上に混ざっていると言われ、音声記号や暗号、判じ絵など一部の特殊な文字以外は、このグラデーションの中に存在するという。
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最も表音的なのがフィンランド語で、その反対が中国語と言われているとのこと
その分類から考えると『音』を表すのではなく、意味を伝えるためのアイコンは限りなく表意文字に近い存在と言えるだろう。
文字とアイコンの違い
しかしながら、調査をしていくうちに、文字とアイコンの大きな違いがわかってきた。
それは元来、言語は、話す・聞くという行動があり、文字はそれを記録・伝達するためのシステムであり、それに対し、良くも悪くもアイコンは話す・聞くとセットになっておらず、既存の言語システムの上に、意味のみを抽出して伝えることができるシステムだということだ。
アイコン以外に話す・聞くがセットにならない文字システムは、数字・数式などがそれにあたる。
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アイコンは文字を超えることができるのか?
これらを踏まえて、この記事のタイトルに戻りタイトル回収を行うと、文字システムとアイコンは、それぞれ別の役割があり、アイコンが世界共通の文字として置き換わっていくことは難しそうだということがわかった。
(よくよく考えてみると、何を当たり前のことを言っているのか、という感じではある)
一方でアイコンには、それを媒介に複数の言語を横断して繋いだり、少ないスペースに文字以上の意味を込めることができる特徴を持っている。
例えば、地図やスマホアプリなど、情報を記載できる領域が限られている媒体ほど、その効果は顕著となる。ある種のショートカット(もしくはエイリアス)とも言えるだろう。
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日夜、デザイナーたちは、さまざまなものを「アイコン」という器に情報を埋め込み、ユーザーに対しての情報伝達を助けるために悪戦苦闘している。
ただし、世の中の地図やスマホアプリを見るとかなりの確率で、アイコンと文字が併記されていたり、アイコンの意味が判例として記載されていることが調査の中でもわかってきた。
これらのことから、アイコンは老若男女、万国共通で理解される魔法の言語ではなく、あくまでユーザーの理解を助ける補助言語として、我々は認識することが大事だと、今回の研究の中で発見があった。
おまけ:参考文献など
最後に、今回の研究を行うにあたって参考にさせてもらった書籍などを以下に紹介させてもらう。
最初にアイコンについての考え方を整理にするのに、とても参考になった書籍。アイコンの作り方やデザイン例なども多く掲載されており、デザイナーを中心におすすめ。
「アイコンデザインのひみつ」の中でオススメされてされたいた書籍。文字はどのように生まれ、どのような変遷を辿ってきたのかを調べるのに大変参考になった。
視伝研では、こんな形でゆるゆるとUIやUXについて研究を進めている。
これまでの研究内容はこちら。今後の研究にもご期待ください。