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チェンマイの洪水①
今回チェンマイを襲った100年に一度とも言われる洪水は、人にも建物にも、野や畑や動物たちにも、そして都市機能にも、大きな被害をもたらしました。
被災地域はいまだ南に広がり現在進行形の状況です。
eavamの工房は河から遠い郊外にあり、さいわい被災は免れましたが、市街地にある私たちの自宅は被災地域にありました。
以下は花岡安佐枝のFacebookより。現地の私たちの様子です。
![](https://assets.st-note.com/img/1728377236-5L4W6hK8liEN2AyHVurFfeZM.jpg?width=1200)
【 来ないでと言ったのに 】
水はだいぶ引いてきたのですが、まだ庭の半分は水の下ですし、我が家周辺の道は、それなりに冠水していて危険です。
泥のせいで転びやすい上、普段ならば避けられる窪みは見えないし、水によって陥没が起きていることなどもあるからです。
出水の翌日から、会社のスタッフから大丈夫ですか?片付けなど手伝いに行きましょうか?と何度か電話が来ていますが、断水に停電で来てもできることはほとんどないですし、何より来るまでの道中が危ない!
なので、食べ物も水も充分あって、それなりに過ごしているので、道の水がなくなるまでは、来ないでね!と伝えていました。
ところが、今朝、会社のスタッフから、ハウスキーパーのマダムが心配で仕方がないので、様子だけでもみにいくと言っていますと、電話をくれました。
本人も連絡をしてくれていたのですが、ちょうど私が1階で馬車馬のように水をリビングから掻き出していた時で、電話に気づけなかったのです。
とにかく道中が危ないし、手伝ってもらうほど仕事がある状態ではないから、今日は来てくれるなと伝えて、と答えたのですが、しばらくして、
「私ですよ。これからお部屋に入りますよ。」
と電話が!
「ええー!あれだけ、ダメと言ったのに。。」と呟きつつ、慌てて、下に降りると、玄関に彼女の姿。
どうやってここへ?と聞くと、水が来ていないショッピングモールの近くへバイクを停めて、そこから水の中を歩いてきたというではありませんか!
玄関の木のドアは水で膨張してしまって開かないので、別の入り口に誘導します。
部屋へ入って見て、彼女もちょっと絶句です。
それでも気を取り直して、2階で待つ白いふわふわにキスをして、そうそう。。これを。。と、エコバックからお菓子とサンドイッチを取り出し、
「食べてくださいね。あまり考えすぎす、会社の人たちにも手伝ってもらって、ゆっくり片付けましょう。
でも、とりあえず、今週はまずは水が引くのを待ちましょう。
それまで、アサエさんはなにもしちゃダメですよ。でも気を確かに、頑張りましょう!」
と言いながら、ハグしてくれました。
そして、浸水した後の部屋を見てまわり、これ、アサエさん一人で片付けたの!?大変だったでしょう?と労ってくれたり、冷蔵庫や畳1枚近くあるTVが、少し高いところに持ち上げられているのを見て、まあ、これも一人で!?どうやって!?と驚くので、うん。タオル類で摩擦係数を下げて梃子の原理を使ったんだよと、ちょっとおどけて身振り手振りで説明すると、半分伝わって伝わらなかったような感じで、とにかくすごいわ!とても頑張ったんですね。と、彼女自身が洪水にあったかのように涙を浮かべてまたハグです。
二人で、うわーとか、大変だわ。。とか、言い合いながら、見てまわり、水と電気が来て、トイレや冷蔵庫などのライフラインが使えることを彼女は何度も確認し、会社のスタッフたちの助力のお願い、工事関係の職人さんへの連絡や、動かなくなったピックアップの引き取りと修繕の手配のことなどを打ち合わせ、さらになお食料や水を買ってこようとするので、水も食料も充分あることを伝えたり、実物を見てもらったりして、もう行かなくて大丈夫なのだと納得すると、彼女はスキニーを膝上までたくしあげて、茶色い水の中を、多分水がなくても40分近くはかかる道を戻って行きました。
念のため聞いてみると、彼女の家は一切被害は無かったとのこと。ほっとしました。
この国では、時々、誠実以上に誠実という静かな水のような人に出会い、その度に、良きタイ人という言葉が思い浮かびますが、彼女もまさにそんな一人です。
彼女を見送ってしばらくすると、会社のスタッフから、「マダムは来ましたか?アサエさん、ほんとうに大丈夫ですか?私たちも片付けは手伝いますから、遠慮しないでくださいね!」と、確認の電話が来ました。
写真は彼女が持ってきてくれたサンドイッチとタイのちまきみたいなお菓子。
朝ごはんは予定を変更して、このサンドイッチにしました。
せっかくなので、白いふわふわにも、ほんの少しだけパンのかけらと、ゆで卵をお裾分けしました。
忘れがたく美味しく、心に染み入るような、またとない食事というものがあります。
それはたとえば、ヒマラヤの高山帯で食べた、空気が薄く沸点が低いので、時間をかけて煮込んだ塩とヤクの干し肉だけで味付けした黒い小さな豆のスープ、モロッコの田舎で食べた、遠来の人を精一杯もてなそうとしているのが伝わってくる、山盛りのアーモンドに蜂蜜がしたたったお皿や、甘いミントティー、タジン、雛豆のスープのハリラだったりします。
(アサエの機嫌が悪くなったらハリラを与えろ。すぐに落ち着くから、と笑われるほど、私はハリラが大好き。)
彼女が差し入れてくれた、お菓子とサンドイッチも、間違いなくそうした記憶にずっと残る「ごちそう」になるのだと思います。
(花岡安佐枝)