ゴミで鶏を育てる。石川の養鶏農家が進める「小さな革命」(前編)|#NeighborhoodSustainability
オーガニックや有機農法、減農薬…、日本ではヨーロッパのような厳格なルールがないだけに、この地球を持続可能な環境に導くために農家さんの取り組みは多岐に渡ります。しかしそのどれもが手間がかかったり飼料が高かったりして消費者にとっても農家にとってもコスト的な持続可能性が高くないという問題を抱えています。EATLAB online のこの春夏の特集テーマを「Neighborhood Sustainability(身近な持続可能性)」に決めたとき、すぐに頭に浮かんだ養鶏農家さんがいました。石川県加賀市で養鶏に取り組む山ん中たまご園の堂下慎一郎さんは、たった一人で、通常であれば廃棄されてしまう様々なものから飼料をつくり養鶏をしています。身近な人においしいたまごを食べてもらいたいと願う彼の取り組みには、持続可能な農業のヒントが隠れているのでは…?EATLABの代表、新道雄大がお話しを伺いました。
98%ゴミからつくる餌で育てる山ん中たまご園の循環型養鶏
新道 イベントに出店してもらったり、配達してもらったりしてこれまで堂下さんのたまごをいただいてきて、すごい出汁の味がするなあというのが印象的でした。実際、うちのイベントで“だし巻き卵”ならぬ“水巻き卵”を出してもらったこともあったよね。あらためてお伺いしたいのですが、何を使って餌を作ってるんですっけ?
堂下 だいたい米が主体で、コイン精米機ではじかれたものを使ってるよ。たまに石が混じってたりするけど、ほとんど石も入ってない。ちょうど小石が混ざっていても鶏って歯の代わりに胃に石入れて咀嚼するから本当にちょうどよい餌なんだ。このお米をもらっている農家さんはもし使い手がいなければ畑に戻すって言っていたけれど、まあ、基本的に使い道はそれくらいしかなくて。これはお米の乾燥機を掃除した時に出るやつで、もらってきたもの。埃が混じってたりもするけど軽く振るえば大丈夫。
新道 はじかれたお米と言っても、はじかれる段階によって、石が混ざったり埃が混ざったり、いろいろあるんですね。昔はみんな鶏の餌にしていたんですかね?
堂下 そうだね。
他にも、古古米みたいなものをもらったり、虫沸いてしまったものをもらうこともあるよ。
基本的には捨てるものだからって無償で分けていただいていて、JAのライスセンターに頼むこともあってそのときは有料だけど30Kg500円とかで分けてもらえる。昔は地域に小さな養鶏場があったから、今よりはうまく使われていたかもしれない。いつの頃からかアメリカのとうもろこしが入ってきて、見向きもされなくなったみたい。でも、実際問題、大量生産だと多分賄えないし、うちらは大量生産の方々が見向きもしないおかげで安く手に入れられているところもあると思うんだよね(笑)。
新道 なるほど。お米が主食って言っていたけれど、おかず的なものもあるのかな?
堂下 こっちはエビのひげを砕いたもの。橋立の水産会社が乾燥甘エビを作ってて、捨てていたひげをいただいているんだ。卵とブツブツ交換で。こっちは煮干しのクズ。頭折れたやつとか尻尾折れたやつとか。これは氷見まで取りに行って、卵と交換してる。これは山中温泉に一件だけある鰹節やさんの削くず。まだ全然使えそうだよね。これはすい坂飴(米と麦芽でつくった水飴のようなもの)の絞りかす。これらみんな産業廃棄物になってしまっていたやつなんだよね。
新道 こんなにあるのか…! 正直、食品廃棄物って今、とても話題にはなっているけれど、もっと加工された段階での需要と供給のバランスがあってない段階で廃棄されるもので、生産段階でこんなにも廃棄されるものがあるなんて、あるだろうなとは思いながらも、実際には見えていないというか…。何気ないものに結構な廃棄が出ているんですね。
堂下 昔はみんな有機農業なんてみんな当たり前だったから農家さんの肥料になったり餌になったりしてたけど、どれも今は行き場を失ってしまって。
畑に撒くとかの手段があればいいけれどなければ産業廃棄物だからね。廃棄にお金がかかるだけならまだいいけれど、水分の多いゴミなんかは重油かけながら燃やしたりもするって聞いて。
あとは米ぬかかな。米農家にはだいたい余ってるからね。
新道 じゃあ、貰い物とかブツブツ交換100%で餌ができているの?もらってきたら、これらを混ぜて餌にすると。
堂下 唯一買ってるのは牡蠣殻かな。牡蠣はこの辺でも取れるんだけれど、結構な量を洗って乾燥させて粉砕することを考えると、結構機械も必要になってくるしこれだけ唯一餌屋さんに頼ってる。あとは混ぜて一晩くらい発酵させてる。発酵させたほうが微生物も一緒に取れるし代謝にもいいんだ。
古きに学びながらもアップデートしていく
新道 ちなみにこの発酵飼料の作り方は堂下さんのオリジナル?どうやって学んでいったんですか?
堂下 だいたいは本を参考にしながらかな。
でも古い本だと本当にあてにならなくて最初は大失敗を相当繰り返したよね。本当に悲惨な失敗だったんだ。
昔の鶏と今の鶏は求めるものが違っていて。今の鶏は改良されているから、ちゃんとカロリーがあって、タンパク質があって、とにかく栄養のあるものを求めるんだけど、それをいい加減なことしてたら栄養が足りなくて他の鶏の腸を引きづり出して殺してまで食べてしまったんだ…
平飼い養鶏家って結構みんなやってる失敗なんだけど、うちももれなく1年目の夏かなんかにやってしまって…
最初はケツの毛を引きちぎって食べて、そこから血を吸うことになって、最後は内臓を出してしまうと。
それでやばい!となってちゃんと勉強して、タンパク不足がそういうことを起こすことがわかって。
昔は素飼料で大食いだったけど、今の鶏は小食で多産に改良されてるからある程度の栄養あるものをガツンとやらないとそういうことが起きるとわかったんだ。昔の本にはそれは繊維不足だから刈り草をいっぱいやれなんて書いてあるんだけれど、今の養鶏では全然それは不正解だったりする。
新道 それは結構エグいですね…。飼料を発酵させたりというのは昔の本からの学びで、作ってみたら栄養が足りなくて最新の飼料も勉強したっていうことですね。ちなみになんで発酵させるんですか?
堂下 そう。もともと野生の鶏っていうのはその辺の虫とかきのみとか腐葉土をほじくって食べていて、微生物をいっぱい体に取り込んでいた。それを再現するために発酵させているんだ。これで糞が臭くなくなったり、鶏にとってあまり好きじゃない臭いの餌でも発酵させてあればいい香りになる。ただ、発酵させすぎるとエネルギーが熱に変わって減ってしまうから、ほどほどにね。
たまごのたまご臭さの一部は餌の魚粉によるものなんだ。市販の魚粉とかでも発酵さえさせれば嫌な匂いとかって少なくなるんだけど、普通はそんな手間はかけられないからほとんどの養鶏農家がやっていないことなんだ。
新道 でも、まだまだ餌として使えるものが誰も見向きもしなくなったから産業廃棄物になっていて、それをうまく回すことで餌のコストを抑えるから、かけるべきところに手間をかけることができる。理想と現実をうまくコントロールしながらちょうどよく循環できるサークルの大きさを探っているように見えます。
堂下 やっぱり、こういうこともうちはうちの量で養鶏をしているからこそかけることができる手間なんだ。当たり前だけど、日本の家庭のたまごを賄うのはうちだけでは無理なわけで、それをやりたいとも思っていない。餌として使えるような産業廃棄物が見向きもされていないから安く手に入れることができるわけだし、だから、大手の大量生産のやり方を全く否定はできないけどね。
(後編に続く)
後編では、堂下さんの養鶏のここに至るまでの経緯や哲学、今後の展望など、リアリティたっぷりにお話しいただいています。身近な顔の見える暮らしが安心する時代。みなさんの暮らしに少しでも寄り添えたら幸いです。後編は明日公開予定。ぜひお楽しみに!
山ん中たまご園
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EATLABマーケティング研究室
「地域の食文化を持続的に未来に繋ぐ」ことを考えるコミュニティマガジンです。食文化・マーケティング関連の有料マガジンの購読に加え、石川県小松…
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