ゴミで鶏を育てる。石川の養鶏農家が進める「小さな革命」(後編)|#NeighborhoodSustainability
オーガニックや有機農法、減農薬…、日本ではヨーロッパのような厳格なルールがないだけに、この地球を持続可能な環境に導くために農家さんの取り組みは多岐に渡ります。しかしそのどれもが手間がかかったり飼料が高かったりして消費者にとっても農家にとってもコスト的な持続可能性が高くないという問題を抱えています。EATLAB online のこの春夏の特集テーマを「Neighborhood Sustainability(身近な持続可能性)」に決めたとき、すぐに頭に浮かんだ養鶏農家さんがいました。石川県加賀市で養鶏に取り組む山ん中たまご園の堂下慎一郎さんは、たった一人で、通常であれば廃棄されてしまう様々なものから飼料をつくり養鶏をしています。身近な人においしいたまごを食べてもらいたいと願う彼の取り組みには、持続可能な農業のヒントが隠れているのでは…?EATLABの代表、新道雄大がお話しを伺いました。
▼前編はコチラ
鶏にいいものを食べさせた結果のたまごでありたい
新道 前編では今現在、堂下さんが取り組んでいる養鶏についてお伺いしていたのですが、ここからはもう少しここに至るまでの経緯についても伺っていいですか?農業というか、養鶏との出会いはもともとどちらがスタートなんですか?
堂下 三国の農業法人で就職してそこがたまたま養鶏をやっていて、それが面白くてこれを自分でやりたいと思ったのが始まりで。そこも有機農業してはいたんだけれど、そこのやり方は、全部餌屋さんから部品を買ってきて自分で混ぜて餌を作る感じだった。その中で地物を使っていたのは糠くらいで、他の地域、他の国で作られた餌の部品を配合していた。結局自家配合って言っても、それなら配合飼料を買ってくるのとそんなに変わらないな、って思って。
堂下 あるとき…
甘エビの殻をたくさんもらえる機会があって、すごくいい餌だしそれを入れたいって提案したら、そこの卵はレモンイエローの黄身の色を守ってるし、それが赤くなるからダメって言われて。いいものを食べさせた結果の色なのに、色を守るために餌を選ぶってそれって本末転倒だな、と思って。
それで、だんだんもっと自分でやりたいようにやりたくなってきた。
自分でやるなら地たまごを作りたいと思ったんだよね。
新道 確かに…。どうしても日本のスーパーで扱われるような食材って、大きさや美しさが重要視されてきた歴史があるからか、現場でもニーズに応じてそういう意識ばかりが先行してしまうことって、結構普通にありそうですね。マーケティングが先にあって、それに合わせて養鶏する…というか。“地たまご”とは、地元のものを食べた地元のたまごということですか…?
堂下 独立準備中のビジョンではかなり餌にこだわって、飼料米も無農薬で、出来るだけ加賀市産で…と思ってた。
最初はは飼料米の作付けを頼めなかったから一年目は選別されたクズ米でやろうと思って、たまたま安い年だったからよかったものの二年目でクズ米すら3倍くらいに値上がりしてトウモロコシよりも高くなってしまって。
とてもこれではやっていけない…となって何かいい餌になるものないかな…と思って探して精米したときに弾かれたものってないですかねって言ったらあるよ、となって。
JAでもピンポイントに聞かないとなかなか教えてもらえなくて。
ついでに砕けた米とかもあって、そういうのならめちゃくちゃ安く買えて。
一年目クズ米でお世話になった農家の人に聞いたら少しならあるよって言ってくれて。
今ある資源を循環させる面白さ
堂下 そうこうしていたらこっちの方が面白くなった。
だんだん、石川県産とか有機とかどうでもよくなって。
正直誰がどうやって作ったかわからないごちゃ混ぜの米だけど、行き場がないならうちで使いたいって思うようになった。
新道 クズ米って他では普通何に使うんですか?
堂下 お菓子かな。おかきとかせんべいとか。あとは餌か。俺が独立した年に確か大手の製菓会社が国産のクズ米から外国米に切り替えたことでめちゃ安くなってたみたい。
色々さがしていったら今はもう飼料米(飼料のために育てたお米)とかいらないなとなったんだ。飼料米頼むとしても専用の農地で機械使って作らなきゃならないし、それよりもこういうおこぼれでいいんじゃないって。そしたらすい坂飴のカスとかも声かけてもらえるようになって。
魚粉を使わなくてよくなったというのも大きかった。
魚粉て魚のあらを乾燥して粉砕したものなんだけどそれがめちゃくちゃ高くて臭いんだよね。だから普通の卵の嫌な生臭さっていうのはその魚粉か肉骨粉からくるもので、平飼い卵でも魚粉て使うんだけど、高いし下限ぎりぎりで使うからそうするとコクが薄くなる。でもうちはこういうエビのヒゲとか煮干しとか鰹節のクズをほぼただで集めてきたしたっぷり使うことができて、臭くなくてコクが強いのができると。
繰り返しになるけれど、小規模だからこういうことできるんだけどね。
だからまあ、大規模なところを否定とかは本当にできないと思っている。
新道 でも、これだけ安く仕入れしてもやっぱり小規模でやっているとある程度の値段の卵になっちゃうのは仕方がないっていうことなんですよね。こうした餌づくりをやっている人が少ないゆえに、全部自分で部品の仕入れ交渉から行なって、配合してっていうところからやるのは並々ならない手間暇です。
堂下 労力やね。だから逆に言えば餌を買ってやっているところはぎりぎりの勝負していると思う。
餌って特に穀物飼料は補助金ありきの商売だから、大規模飼料農家の餌はそれで安くできてる部分もあるんだよね。だから大手はそっちを使う。
産廃と呼ばれるようなものを配合して餌づくりをしはじめて、最初の頃は俺、餌屋やろうかな〜とか考えたこともある(笑)。まあ、夏は忙しいしあんまり無理もできんけど。
※堂下さんは養鶏の他に、夏場は浜茶屋(海の家)を経営されています
新道 じゃあやはり、普通なら捨てられちゃうもの、捨てるためにも環境負荷をかけているかもしれないものを利用することで新しい価値になる、ということの方が餌の質へのこだわりよりも面白くなってきたと。
堂下 そうそう。最上級のものよりも捨てられているもの…
最上級を求めようと思うと、どうしても無理が出るし、無農薬でやってくれとか考えていたこともあるけれど、すでにあるものをどうやって循環させていくか、最近はそっちが面白い。
原点は、身近な、美味しいものを食べたいという気持ち
新道 堂下さんは餌という原価になる仕入れの部分からきちんと循環させてて、できた卵を持って行ってまた餌を仕入れたりしてると思うんですけど、仕入れの部分じゃないところとかで循環を意識していることってありますか?
堂下 廃鶏なんかもちゃんと処理して食べたりとか。
夏場は浜茶屋もやっていて、生産から消費まで一緒にやっているからロスを出さないようにというのもあるんだけど、でもそれありきで飲食業をやっているというよりは、もともと料理がやりたくて。養鶏もその延長上でやってる。農業者というよりは料理人の気持ちに近いと思っていて。
やっぱり美味しいもの作りたいというのが一番にあるんだ。有機だとか循環型とかもあるけどやっぱり美味くないと意味がないと思ってる。
新道 確かに、それは本当にそうだと思います。食べものの話しをしているのに、農業の持続可能性の話をしていると、環境への配慮にしても次世代への継承にしても、経営の話にしても、なぜか美味しさということが置いてきぼりになってしまいがちです。美味しさの追求を一旦置いておいて、メッセージだけがドライブしちゃっているというか。ちなみに卸している先は近距離が多いのかなって思っているんですけど、それもやはり考えがあるんですか?
堂下 そうそう。もともと根底に身土不二という考えがあって。近くのものを食べて健康になろうという。遠くのいいものよりも近くの普通のものを食べるというのがいいと思ってて。東京から電話かかってくることもあるけど、近くで養鶏場探してくださいって断っている。
だからうちのお客さんは遠くて小松まで。
原体験は小さい頃から当たり前だった、(黒崎海岸の)浜茶屋での目の前でとった牡蠣をそこで食べるっていう体験。そこに勝る体験はないなと思ってる。
浜茶屋の先代からのお客さんが浜茶屋閉めていたときに京都の料亭で牡蠣食べたけどやっぱり浜茶屋のが一番だって言ってて。
そりゃそうだよなと。市場のいけすに入って料亭のいけすに入って口に入るよりも、海から直で上がったものを食べる方がうまいに決まってる。
最近フードマイレージとかって言っているけれど、そういう環境配慮の考えよりも、もともとは地元のものは地元で食べるのが一番いいという考えからきている。
新道 発端は違うかもしれないけど、地域のものを仕入れてきて餌を作って鶏がそれを食べてそれを地域に還元するみたいなところでいうと、狭いエリアの範囲内で小規模にできてるからこそ理にかなってて実現できているというところもあるんですかね? 例えば、山ん中たまご園では、新聞紙に巧妙にくるんで配達してくれるけど、あれいいなと思ってて。パックとかにも包まれてないけど、それもやっぱり遠くに出さないからこそできてることでもあって。餌には廃棄物を美味く循環させてるのに、パッケージはゴテゴテしてたらやっぱり残念だなあと思ったりするし。
堂下 どうしても高級卵だとモールドパックにデザイナーがデザインしたものだったりするけど、結構高いしね。
あの新聞紙のは先輩の養鶏家がやってて、あれめちゃかっこいいなと思って。
新道 確かに、カッコイイ(笑)。ここまでのお話での中で、大手が違うやり方しているし、自分は小さい規模だからこのやり方ができている、というお話しや、美味しいものを美味しいうちに、近くのものを近くで消費する、というお話しをお伺いしていて、こうした地域の中で循環させる農業は、やっぱり小さい経済圏の中でやることがひとつのヒントになりそうです。
堂下 自分の理想で、ガーデンシティ構想(1898年にイギリスのエベネザー・ハワードが提唱)っていうのがいいなと思っていて。
大都市に集中するんじゃなくて、いろんな都市に小さい産業が散らばっていて、それぞれの都市で完結できるくらいの。それが理想だなあと思っていて。
でも今は逆に行ってるよね。こっちは東京に比べれば、多少はそういうところもあるとは思うんだけど。
新道 確かに。コロニー的な集落が点在してて、今は小学校とかはもう少し広域であるかもしれないけれど、各集落ごとに神社やお寺があったり、商店があったりして、それくらいの中で回せる可能性みたいのはこっちの方が断然あるかなと思ったりしますね。
堂下 でも、もっと引いた目線で見ると、国産の卵も90%以上海外依存だったりするし、いろんな肥料も海外からきたりもしてるし、国産てなんなんだろうと思ったりもする。
日本の養鶏がすベてこういうスタイルになるのは簡単じゃないと思うけど、まだまだ廃棄物っていっぱいあるわけで、こういう養鶏家が少しずつ増えてもう少し循環型になっていくためにも、鶏を飼う人は増えてほしいなと思うけどね。
俺はあんまりビジネスが得意な方ではないんだけれど、もっとビジネス感覚持ってる人が鶏飼うって言ったら全力で応援したいと思ってる。
新道 今は餌の部品を自分で探して集めてきているけど、もっと仕組み化してこういう廃棄物が可視化されてたらいいのかも。こうやって話聞いていると何が廃棄されているかって全然わからないなあってあらためて実感します。なんとなくはあるだろうなと思っていてもどれくらい出てるかわからないし。
堂下 それはあるねえ。そういう情報はぜひ欲しいよね。
ネット上で検索してもうちではどんな産業廃棄物をどれくらい出しています、なんて、全然情報が転がっているわけではないし、直接回って見つけたものも結構あるんだよ。
食品工業団地みたいなところを回ったら、きっとまだまだ使えるゴミはいっぱいあるだろうなと思ってる。
新道 なるほどなるほど。確かに、自社で出しているゴミの量を公表する企業なんてほとんどないですよね(笑)。なんなら隠したいくらいの。それは、普通にネットで検索して出てくる訳が無い。いや、今回、ひととおり餌工房から養鶏場までひととおり見せてもらってお話し聞いてみて、本当に自分が知らないところでの廃棄物って、たくさんあるもんだなあと思いました。今まで、ある程度はあるだろうなと思っていたけれど、実物見せられると、「え、まだまだ食べれそうじゃん」て。普段、自分たちには触れられないところにある情報だけど、本当に知らないことってまだまだあるな…と。今日は本当にリアリティに富んだ示唆深いお話を、ありがとうございました。
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EATLABマーケティング研究室
「地域の食文化を持続的に未来に繋ぐ」ことを考えるコミュニティマガジンです。食文化・マーケティング関連の有料マガジンの購読に加え、石川県小松…
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