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【クラクラ旅日記】青森2日目 黒石のレトロな消防施設と蔵造りの商店
11月18日(金)
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レトロなミニ消防署
ローカル鉄道で弘前に向かおうと駅の方へ歩いていると、赤い壁と屋根の奇妙な建物が見えた。
「第三消防部」と書かれた大きな木の看板が掲げられている。
ガラス戸の中は暗くてよく見えない。
屋根の上にはガラス張りの小さな物見の塔。
道端には別にもっと高い火の見櫓らしい鉄塔が立っている。
現役の消防署なんだろうか?
そんなわけないよな。
建物のサイズ的に、消防車は入らない。
地元の消防団の小さな放水車でも置いているんだろうか?
さっき駅で見た案内地図を写真に撮っておいたので見てみると、「第三分団第三消防部屯所」というのが出ていた。どうやらこれのことらしい。
現役なのか、昔の建物を保存しているだけなのかわからないが、とにかくこみせ通り以外にも興味深い建物がありそうなので、もう少しこの街をうろついてみることにした。
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アールデコ建築
近くに寂れた感じの商店街があり、廃業した商店が並んでいる中に、アールデコ風の建物を見つけた。
アールデコは20世紀初頭に流行した様式で、工業化の時代を反映した幾何学的なデザインが特色と言われる。
欧米の都市にはその頃建てられた建築が残っている。
よく知られている例としては、ニューヨークのクライスラービル、日本では旧朝香宮邸・白金庭園美術館などがあるが、それ以外にもアールデコっぽい建物や調度品、電気製品などを見かけることがある。
この建物もただの商店建築に過ぎないと言えるかもしれないが、あきらかにアールデコを意識したデザインになっている。
昭和初期、当時の流行に乗って、映画館とかキャバレーなどがこの手のデザインで建てられたが、この商店もそんな建物のひとつだったのだろう。
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鉄筋コンクリートの「こみせ」
また少し歩くと、二階建ての低層ビルの一部が「こみせ」的に通れるようになっているのを見つけた。
1階の一部は閉店した商店か飲食店、2階は機械の製作所だったらしい。
まわりの建物は特に「こみせ」的なアーケードになっていないので、特に通行人に配慮したものではないのかもしれないが、冬に作業するにもこうなっている方がよかったのだろう。
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蔵造りの商店
さらに歩いていると、蔵造りの商店があった。
こちらは現役の肥料店らしい。
耐火性を重視した蔵造りの商店建築は、川越の古い街並みなど、全国のあちこちに残っているが、黒石の街で見かけたのはここだけ。
蔵造りにしなくても、古い木造建築の街並みが残っているのだから、黒石の防火対策は昔から徹底していたのかもしれない。
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第二消防部屯所と黒石の防災意識
大きな通りを渡ると、遠くにさっき見たのと同じような消防屯所が見えてきた。
案内地図によると「第二分団第二消防部屯所」とのこと。
気になったのでネット検索してみたら、大正時代に建てられたもので、当時最先端だった消防車が配置されていたという。
今は2カ所が保存されているだけらしいが、かつてはもっとあちこちにこうした屯所が設置されて、火事に対応していたのだろう。
そこに黒石の防災意識の高さを感じる。
江戸時代から明治時代までは、消防車がなくても火消しの組織が整備されていて、対策にあたっていたのだろう。
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街に引き留められる
そもそも日本の伝統建築は燃えやすい木と紙でできているので、住民たちは昔から火を出さないために色々な工夫をしてきた。
消防署以外に街の有志による消防団があったり、夜間に「火の用心」と声をかけて回ったり、正月の出初式など火消しのイベントで防火意識を高めたりといったことだ。
そんなことを考えながら歩いているうちに、なんとなくこの街のことが好きになってきた。こみせ通りをちょっとのぞいただけで立ち去らなくてよかった。
旅で出会う土地や物や人は、そのときの成り行きとか気分とかで印象が大きく変わる。たまたま最初に感じた違和感だけで、その街を好きにならないままさよならするのは悲しい。
駅の近くまで来たが、ローカル列車は出たばかりだったので、もう少し黒石散歩を続けることにした。