【徒然日記】 ゲームのような闇バイト、バーチャル空間の強盗殺人
現実感の薄い犯罪
SNSで集められた素人集団が、スマホで指示を受けながら、民家に押し入り、年寄りを縛ったり、殴ったり、場合によっては殺したりして、たいした額でもないカネを奪う事件が立て続けに起きるのを、テレビやネットのニュースで見ていると、凶悪な強盗殺人が、なんだかファンタジーやゲームの世界で起きている、フィクションみたいに感じられる。
実行犯たちも、カネに困っていたとか、遊びのカネがほしかったとか、わりと軽い動機でやっているようなので、彼らもそれほど現実としての実感がないのかもしれない。
滞納金を払うための強盗という矛盾
一番印象的だったのは、滞納金を払うのに、親に迷惑をかけられないから、闇バイトの強盗をやってしまったという若者だ。
テレビのニュースでも司会者やコメンテーターが首を傾げていたが、払うべき金を払わずに滞納するという、社会的な迷惑行為を回避しようとする判断ができ、親に迷惑をかけたくないという倫理的な意識があるのに、強盗という犯罪はやってしまうというのは、普通に考えたら矛盾している。
しかし、当人にしてみれば、滞納金は督促で責め立てられるし、親にカネを無心すれば怒られるだろう。そういう現実的な攻撃は精神的に苦痛だから避けたい。
それに比べると、SNSで募集される闇バイトは、嘘かホントかわからないものの、一応「ホワイト案件」とかうたっているし、簡単にかなりの額が稼げると言っているから、乗ってみようかという気にさせられるのかもしれない。
バーチャル空間の出来事
ネットを通じて仕事の説明を受けているうちは、生身の人間と会うこともないので、仮想空間の出来事みたいに感じられる。「やばいかも」と薄々思っていても、ただどこかに行って、何かを受け取って運ぶだけだという説明にしがみついて、契約してしまう。
そして、個人情報や親の情報を入力してしまったら、もう引き返せない。裏に反社がいて、逃げても捕まるかもしれないし、親に危険が及ぶかもしれないからだ。
普通の若者たちによる暴力の不可解さ
捕まった実行犯をニュースで見ると、暴力とは無縁そうな普通の若者たちが多い。彼らはどんな気分で当日現場に行き、年寄りを脅したり殴ったり縛ったりするんだろう?
一見普通に見えても、実はケンカに慣れていて、年寄りを殴ったり縛ったりするのはお手のものなんだろうか?
それとも、やっている間も現実味が感じられないまま、VR空間でゲームをやっているような気分なんだろうか?
どう考えても不可解だし、理解できない。
現実世界も実は不可解で不合理
しかし闇バイトの実行犯たちを、「現実」の世界から見ているとき、おそらく我々は大きな間違いを犯している。
「現実」と一般的に思われている世界も、実は無数の不可解な概念やルールで縛られ、お互いよくわからない人や組織によって運営されているゲームのようなものだからだ。
今の世の中は、先端テクノロジーを活用したビジネスと、そこに巨額の資金を提供する複雑な金融サービスで動いている。
GoogleやAmazonの創設者とか、イーロン・マスクのように、卓越した知性や独自の発想力で果敢に勝負し、のし上がれば、億万長者になれるかもしれないが、確率は1000万分の1だ。
それができないなら、勉強で付加価値の高い技術・知識を身につけ、大企業か成長企業に入って、競争を勝ち抜いていくしかない。エリートとして成功するのは100人に1人くらいかもしれない。
最初からチャンスすらない人たち
自由な競争社会は一見フェアに見えるが、誰もが高度な技術や知識を身につけるための素質を持っているわけではない。
大きなチャンスがある世界は、多くの子どもたち、若者たちにとって、理解不能なくらい難しい仕組みでできている。勉強が苦手な子どもや若者には、最初からチャンスすらないのだ。
高度な技術や知識を身につけるためには、いい大学や大学院に行く必要があるが、高額な学費がかかるから、最初から金銭的に無理だったりもする。
閉塞状態の社会
もちろん億万長者やエリートでなくても、まともな勤め先でサラリーマンになれば、それなりの人生は送れるし、自分で事業をやって、それなりの成功者になることもできる。
しかし、日本は製造業で国の経済全体が成長できた時期をとっくに過ぎて、成熟から衰退期にある。成長を経験した世代は老人になり、年金で暮らしているが、年金制度は先細りで、若い世代が年寄りの年金を補填するために働いている。
日本の大企業は可能性のある事業を生み出せず、低金利や低い税率で余ったカネを溜め込んでいる。
官僚機構が「安心安全第一」を旗印に規制でがんじがらめにしているので、若者にチャンスがあるはずのベンチャーは育たない。
若者たちには、理不尽なルールで不当に搾取されているという不満、閉塞感が溜まっている。彼らにとって、現実世界こそ不可解で理不尽なのだ。
現実こそ理不尽なゲーム
『カイジ』のように、登場人物が不可解なゲームに参加させられる系の漫画や映画にリアリティがあるのは、多くの人が現実の世界で体験していることだからだ。
ネットを通じて気軽に応募して、初対面の連中と強盗殺人を犯してしまう闇バイトの、非現実的な残酷さと不可解は、先進国で現実に機能している、複雑で不合理なシステムの不可解さなのだ。