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勉強の時間  自分を知る試み29

今起きている変化


しかし、前回紹介したようなSF的未来を想像するよりも、今起きつつある世の中の変化に、別の未来を想像してみる方が現実的だという気もします。

それは、近代の進化の原理、資本主義の成長・拡大の原理とは違う、細流化の原理、分散・流動の原理です。

「人類史まとめ」の章でも紹介しましたが、産業革命以後に経済の拡大を加速させてきた合理性の追求、そのための資本や組織、施設の巨大化といった原理は、大量生産、大量流通があたりまえになってきた一方で、次第にパワフルでも魅力的でもなくなってきています。

大量に作りすぎた商品を大量に廃棄したり、巨大化した組織の生産性が低下したりといったことが、社会や産業界のいたるところで起きています。

作りすぎや売れ残りを減らすためには、広いエリアを巨大な組織で一元管理するのではなく、地域で必要とされるものを必要なだけ生産して消費する方が効果的です。

巨大な組織の生産性低下を解消するためには、部下にあるいは現場に権限移譲するマネジメントが色々な企業で導入されています。

エネルギー資源や食料なども、多く生産する国や地域に依存する度合いを下げ、それぞれの国や地域で持続可能なエネルギーを使った発電や、食料自給の割合を引き上げていく政策が、色々なところで進められています。

つまり、近代以降主流だった中央への集約や拡大・巨大化から、地域への分散や細流化、垂直な支配ではなく地域どうしが横につながる水平ネットワークへと、色々な活動の原理が移行しつつあるわけです。



数値と現実のズレ


成長と利益とか、株価による企業価値とか、数値的な拡大を尺度にすると、こうした動きは経済成長を阻害し、停滞させるように見えるかもしれません。

しかし、経済は元々人間が自分たちの利益のためにやっていることの総体です。その利益の意味が変わることもありえます。人間のやりたいことが、必ずしもビジネスの利益を上げること、資産を増やすことではなくなっていくこともありえます。

得られるすべての利益や持っているすべての財産を放棄しなくても、何割かをあきらめて、身近な地域の再生みたいなことに振り分けていけば、経済拡大の加速による環境の破壊や資源の枯渇、食料不足といった地球規模の不都合の拡大を止めることができるかもしれません。

身近な地域の経済や暮らしの環境が改善されることが、地球規模の大きな問題を抑制することにつながっていくなら、それは進化のエスカレーションで地球や人類が破滅するより魅力的ですし、新しい尺度から見た人類にとっての利益にもなるはずです。



繰り返される歴史


こうした中央集権から地域分散へ、巨大化から細流化へといった原理的な転換は、もしかしたら人類が史上初めて経験することではないのかもしれません。

東洋でも西洋でも、国家は最初、小さな地域の集落の集合体や小さな都市国家として形成され、それらが統合されて大きな国家へと発展しています。

規模が大きいほど軍事力も大きくできますし、食料などの確保も効率よくできますから、国家は大きければ大きいほど強くなります。

しかし、国家の規模は無限ではありません。大きくなりすぎれば統治が行き届かなくなり、離反する地域が出てきたり、外部から侵略されたりして、崩壊します。

中国の漢に始まる大帝国も、ペルシャやサラセン、トルコなど中東の大帝国も、中東からアフリカ、ヨーロッパまでをカバーしたローマ帝国も、スケールメリットを求めて成長拡大し、やがてその大きさを維持できなくなって崩壊しました。



中央集権型から分散ネットワーク型へ


一方、それぞれの地域には、こうした大帝国とは別に、小さな都市国家を単位として勢力を展開していった民族がいます。地中海のフェニキア人やギリシャ人、中央アジアの遊牧民などです。

フェニキア人はアフリカからイベリア半島にカルタゴという大きな国家を建設し、アジアの遊牧民は中国を征服して元という帝国を建設したりしましたが、中央集権的な大帝国は数百年しか持続できないのに対して、分散型ネットワーク型の小国家は、もっと柔軟で長期間持続します。

トルコやサラセンなどの帝国も、元々砂漠にネットワークを張り巡らせていた遊牧民や商人の勢力が、ある時期にスケールメリットの原理によって統合されて生まれ、大帝国の制度疲労によって分解された例といえるかもしれません。

ヨーロッパではローマ帝国が崩壊した後、カトリック教会と各地域の貴族による、分散型の統治が何百年も続きました。

中央集権的な統治の空白期間が長かったこの時代に、各地の商人が商取引のネットワークを形成し、中世後期に商業都市や都市国家を建設し、そこから経済と科学がリードする近代ヨーロッパが生まれることになったのは、すでに紹介した通りです。

つまり、古代から数千年の人類史でも、スケールの原理と細流・分散の原理の栄枯盛衰が、いろんな地域で何度も繰り返されてきたわけです。

近代の科学と経済による拡大・成長の原理は、人類史上初めて世界統一を果たしましたが、だからといってこの原理が永久に続くという保証はありません。

数百年の繁栄をもたらした後、制度疲労を起こし、そのネガティブな状態をカバーするために、今また細流・分散の原理が働きはじめているということなのかもしれません。

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