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映画「エリジウム」が好きです
「エリジウム」は、アカデミー賞に4部門がノミネートした「第9地区」を繰り出したニール・ブロムカンプの監督・脚本によるSF映画である。
テーマは「第9地区」と同じ格差だ。
2154年、人口のごく一部の超富裕層は環境が悪化した地球から離れて宇宙空間にあるスペースコロニー「エリジウム」で贅沢な生活を送っている。
しかし、ほとんどの人間は荒廃した地球で不自由な暮らしを余儀なくされている。
その格差は特に医療の面で深刻だ。
現代では治せないような癌なども技術が進んで治療できるようになっているにも関わらず、その技術は一部のエリジウム市民によって独占され、地球に住む人に与えられることはない。
「第9地区」で成功を収めたニールは、前回とは打って変わって「マット・デイモン」、「ジョディ・フォスター」という超有名キャストを起用してこの映画を作ることになった。
個人的に、この映画を見て思うことは「いい意味でのB級っぽさ」である。
もちろんこの映画がB級映画でないことは知っている。製作費は1億ドルはかかっているし、上述したようにキャストも相当いい人を使っていて、文字上の雰囲気は大作っぽい感じだ。
だが実際に見てみると、意外なほど設定は単純だ。
外に飛び出した人類、地球環境の悪化によって貧困、スラム化した地球、どこかで見たと思ったら、この世界設定は田中芳樹の銀河英雄伝説の地球の設定に似ているのだ。(もちろん、設定が似ているだけで、世界観はかなり異なるが)
(余談だが、不思議なことに機動戦士ガンダムの宇宙世紀の話では地球とスペースコロニーの立ち位置は真逆である)
他にも、一部の市民が利権をむさぼり多くの人々が窮状にあえぐ、という構図も陰謀論やSFでよく見る構図で、「第9地区」と違って特にひねりが入っているわけではない。
結末も、驚きがなかったわけではないがよくあるSF作品の予定調和を見ているようで、安心して見られた。
前作の主人公を演じ、今回の悪役でもあるシャールト・コプリーの演技も特にひねりを加えたものではなかった。
15件もの残虐な行為に関与したが「M・クルーガー」の役だが、その経歴にたがわず残虐非道な男として描かれており、かつ特にキャラクターそのものに深みはない。
だが、個人的にはこの「単純さ」または「わかりやすさ」こそが「エリジウム」の長所だと思っている。
というのも、最近設定の複雑さ、各キャラ個人の屈折性やドラマ、ストーリーのリアリティ性、SFの緻密な設定など、「頭を使う映画」が「いい映画」だと思ってそういうのを見続けているからだと思う。
同じ監督の「第9地区」などはまさにそうで、「南アフリカのヨハネスブルグに宇宙船が表れるのは監督が生まれ育った南アフリカで感じたアパルトヘイトを象徴したいから」(実際、「第9地区」も今作も、扱うテーマは格差である。(「第9地区」ではそれに人種差別が追加される))とか、
「第9地区周辺での「エイリアンお断り」の看板はアパルトヘイトのメタファーである」とか、「平凡な主人公が少しずつ自分が卑下していたエイリアンになっていくことの残酷性」とか、考えなければならないことが多すぎるのだ。
それに対して、今回の映画はかなり考えなくて済む(もちろんいい意味で)。
ネタバレを防ぐため詳細は控えるが、水戸黄門的な勧善懲悪ものであり、もちろん紆余曲折はあるのだが、予定調和で終わる、というところを強く評価したい。
もちろん、話の展開が平易であればいいというものではない。
内容が簡単であれば簡単であるほどそれを織りなすキャストの演技は何となくチープになりがちなのだが、この作品の演技は素晴らしい。
個人的に特筆すべきは先ほども挙げたシャールト・コプリー演じる傭兵「M・クルーガー」で、日本刀で大胆に敵をぶっ刺したり、相手が民間人の普通の女性でも容赦なくぶん殴ったり、いろいろあって自分が権力を取れるかもと踏んだら即刻エリジウム中の市民をぶっ殺しにいったり、正気を失ったようになったりと忠実にクズを演じているのがすごくいい。
見ていてものすごく痛快だ。日本刀と手裏剣がメイン武器なのもニヤリとくる。
彼を見に行くためにこの映画を見に行くといっても悪くないと思えるほどいい演技なので、ぜひ皆さんにも見てもらいたい。
結果的に彼を推しまくってしまったが、彼以外に見どころがないわけではもちろんない。
物語終盤の、主人公マックスとクルーガーが戦うアクションシーンはまさに圧巻だし、闇商人であるはずのスパイダーが地球を救うという構図も好きだ。主人公の幼馴染のフレイは自分を身代わりにしてでも子供を守ろうとしてるし、マックスとフレイの友情もしっかり描かれている。
エリジウムは空気で満たされているはずなのになぜか宇宙空間と連続しているし、システムの書き換えはえらく簡単に起きるし、エリジウムのセキュリティは甘々だけれど、それらに目をつぶってでもこの映画には見る価値がある。
今のところ(2020/12/8)ではプライムビデオでもみられるので、興味があれば今のうちにどうぞ〜