優しいカレー
母が作るカレーは絶品でした。
私が20代の頃、母は家に親戚や知り合いを呼び絶品カレーを
振舞ってくれる時期がありました。
母のカレーを食べると誰もが
「美味しい~!」と笑顔になり、カレー屋をやって欲しいとも言われていました。
母のカレーにはレシピがありません。
母に聞いても市販のカレールーに色々加えているそうで、適当なんだそうです。
そのため、母が作るカレーはその都度味が微妙に変わります。
時々、あの絶品カレーとは違うカレーができたりもします。
そして母が上手くカレーを作ろうとすればするほど、皆に前と違うと言われるようになってしまい、自然と家に人を呼んでカレーを振舞うことはなくなっていきました。
母のつくる絶品カレーは幻となったのです。
私がカレーを作る時は市販のカレールーの箱に書かれたレシピ通りに作ります。
私も息子もそれで十分に美味しいと食べていました。
私の仕事が忙しかったり、体調が悪くなってくるとカレーも作れなくなりました。
カレーが食べたいときはレトルトカレーを買っていましたが、たまたま買ったレトルトカレーが私が作るカレーより美味しいとなり、私がカレーを作ることはなくなりました。
今は母と叔父と私の3人暮らし。母も叔父も料理人ですが、お店は叔父がメインで料理を作っていました。
私が実家に戻ってから母が数回、カレーを作っていましたが、叔父がそのカレーを何度もダメ出しするから、母はとうとう「私はもうカレーを作りません」と宣言してしまいました。
私は母に前に食べて美味しかったレトルトカレーを教えてあげると
「美味しい。もうカレーはこれでいい」
となりました。
叔父も自分ではカレー作らないで食べたいときはレトルトカレーを食べていました。
叔父はレトルトカレーは美味しくないとぶつぶつ言いながら食べていました。
そして先日、とうとう叔父が
「俺が俺の食べたいカレーを作る!」
と言い出し、カレーを作り出しました。
私と母は「ふ~ん」って感じで様子を見ていました。
夕食時間になると何やらキッチンからカレーのいい匂いがしています。
そして、叔父よりも先に私と母はご飯とカレーをよそい、叔父が作ったカレーを食べ始めました。私と母はカレーを一口食べると
「美味しい~!」「すご~い!」
と絶賛の嵐です。
その様子を見て叔父も「どれどれ...」と言いながらカレーを食べ始めました。
そして、自分が作ったカレーをぶつぶつと批評していました。
私のお皿にはご飯だけが残り、カレーが無くなっていました。
私は席を立ってカレーを足しに行こうとすると、叔父が
「お代わりして、お腹大丈夫か~」
と私の胃を心配していました。
そして私は叔父に
「大丈夫。このカレーは飲み物だ」と言っていました。
そう叔父のカレーが美味しすぎて私はカレーを飲んでいたのです。
お代わりしても何故かカレーだけが無くなるのです。
美味しいカレーは飲めることを知りました。
私と母はこんなに美味しいカレーを作ってくれた叔父にお礼を言っていると、叔父は
「ただ、俺が食べたかったカレーを作っただけだから」
と言いました。
でも、私は知っているんです。
本当は叔父はもっとカレーを辛くしたいけど、そうすると私が食べられないから俺が食べたいカレーを作ってないことを...。
叔父は私が作る料理を褒めることはないけど、甘いもの好きな叔父は私がホットケーキを焼くと喜んで食べてくれます。
美味しいカレーのお礼に久々にホットケーキでも焼こうかなと思います。
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