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【読書感想】「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」 辻村深月


「噛み合わない会話と、ある過去について」がとても面白かったので、辻村深月さんの作品で2冊目に読んだ本。


つくづく前に読んだ作品同様、

「この作者は人の突いて欲しくない絶妙なところを、なんて的確に突いてくる人なんだろう」

と思った。


要所要所で描かれている都会と田舎の感覚の違い、学力の違いや興味の方向の違い、またそれらによる物の捉え方の違い、無意識に人に対して行なっているであろう優越感だったり劣等感だったり…読んでいて顔をしかめたくなる。
自分も無意識にやっているかもしれない…いや、きっとやっている…身につまされる。

「職業に貴賎なし」
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」

頭ではわかっている。

しかしなんとなく人は、都会の方が田舎より洗練されていて、学力の高い人間は低い人間より優れていて、家庭科よりも学科試験が出来る子の方が能力が高いと世間から捉えられがちだ。
学力の高い人はそれだけで物事の視野や知識も豊富で、人間的にも優れていると錯覚してしまいがちではないだろうか。


統計的にそれは合っているのかもしれない。
実際にある程度の整合性があるのかも知れないが、あくまでそういう人の割合が多いだけで、全ての人がそういうわけではない。



なのに人は悪気なく偏見をもって人を査定してしまうことがある。
ある人は態度が大きくなり、ある人は卑屈になって。


あえて触れることを避けてしまうようなこの事実を、ストレートに、大袈裟でなく、真正面から、言葉に表してしまう作者の力量に凄いなぁと感心してしまった。


そしてもう一つ、この本の中で描かれている母と娘という関係の難しさ。


物語は、娘が母を刺し殺して行方をくらましているという事件を中心に進む。
その行方をくらました娘は主人公の幼馴染だ。


そんな事件をニュースで知れば、大半の人は毒親に日頃から虐待を受け追い詰められた娘が起こした犯行では?と思うのではないだろうか。
もしくは、内面に問題を抱えた娘が母を攻撃し逃走したのでは?と思う人もいるだろう。


しかしこの小説には誰もが非難するような毒親も世間との関わりを絶ったような娘も出てこない。
出てくるのはほんのちょっとだけ世間とズレた感覚を持つ母と娘。
どこの街にも一組はいるであろう母と娘だけだ。


むしろある人にとっては羨ましいほど仲睦まじい母子関係、ある人にとってはお手本にしたい母子関係かもしれない。


事件の母と娘の関係だけではない、主人公の母と娘の関係にも一般的ではないズレがある。
世の中の多くの母と娘の関係にも多少のズレはあるのではないだろうか。
母と娘だけに限らないかもしれない。
母と息子にも、父と娘、息子にも。

娘を愛しているから、娘の幸せを願うから、母は過保護にもなるし過干渉にもなる。
論理的でないおかしなことをしてしまう時もあるし、ヒステリックに攻撃してしまう時もある。
愛が強いゆえに周りが見えない、理屈も常識も頭からふっ飛んでしまうことがある。

そして運悪く苦しく辛い悲劇が起きてしまった。

母は亡くなる寸前まで娘のことを案じ、娘のことだけを考えていた。

読後、自然と涙が出た。




しばらく経って冷静になったあと、
自分も我が子の育児で気をつけないといけないなぁと思ったことも付け加えておく。



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