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中途半端なICT教育は、教育現場の”荒れ”を助長するだけ

 勤務先の塾にて理科と社会の用語暗記テストを実施することになり、なるべく学校の進度に合わせようと、生徒達に「今学校でどこやってる?」と何度か質問したのだが、その度に「分からない」という返答をされて困っている。仕方なく、一番最初の単元からプリントを準備した。

 もしやと思い、生徒の一人に授業の様子を聞くと、やはり荒れているという。その子の話では、先生は全生徒に一人一台支給されているタブレット端末を使用した練習問題をさせようとしているのだが、生徒達は誰も問題に取り組まず、授業中に(!)タブレットを使ってゲームに興じているそうだ。

 このタブレット端末の一人一台支給は、文科省のGIGAスクール構想によるものだ。子どもの頃からICT環境になじむため、学校でも家庭でも、いつでもどこでもタブレットを使用した学習に取り組めるようにするというのが、その趣旨らしい。さすが文科省、随分とお花畑な政策である。

 中学高校(もしかしたら小学校高学年も)の教員が、どれだけ生徒達のスマホ・携帯電話を巡るトラブルに頭を悩まされてきたか、文科省のお偉方は知らなかったのだろうか。いや、知らなくても、想像すれば分かるのではないか。

 自分を律することのできない子に、時間の区切りなくタブレットを持たせるということは、学校にスマホ持ち込みを許してしまうのと同じである。

 そもそも従来のパソコン学習だって、教員は児童生徒が学習中に”余計なコト”をしないよう、きちんと指導した上で行ってきたのである。そしてそれだけ指導しても、教員の目を盗んで勝手にYoutube動画を視聴したりゲームしたりする子は一定数いた。
 それを「いつでもどこでも」タブレットが触れる状態にすればどうなるか、火を見るより明らかではないか。

 タブレットに逃げたくなるような面白くない授業をする教員が悪い? バカも休み休み言えという話である。子どもというものは、どうしたって刺激の強い方に流れてしまう。刺激の強さでは、教員がどんなに努力しても、タブレットやスマホには敵わない。その”余計な刺激”を取り除くのも、教員にとって学習規律を整える上で重要になるのだが……

 スマホに依存性があることは、すでに多方面から指摘されている。塾講師としての私の体感でも、従来であれば問題なく学習に取り組んでいたレベルの子達が、スマホを手にすることで学習に集中できなくなってきているように感じる。本来であれば、むしろスマホやタブレットから、子ども達をいかに”遠ざけるか”ということを議論しなければならないはずだ。

 このGIGAスクール構想は、子ども達の学習意欲を阻害し、いたずらに教員の負担を増大させているだけではないか。ICT機器を使用するにしても、もっと学校現場の裁量に任せるべきだ。どうしても生徒達の学習規律を整えるのが厳しい実態があるのなら、いっそのことタブレットを生徒に渡さない方が良い。いや、渡すべきではない。

 はっきり言う。安易かつ中途半端なICT教育は、教育現場の”荒れ”を助長するだけである。文科省は、今すぐこのお花畑な政策を中止すべきだ。

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