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小さな幸せ〜コーヒーの時間〜

家の近くに、小さなコーヒー豆屋さんがある。特別目立つわけでもなく、歩いているとふと香ばしい匂いが漂ってきて、その存在に気づくような店だ。店に入ると、まずはゆっくりとコーヒー豆を見て回る。目の前にあるたくさんの豆の中から、「今日はどれにしようか」と考える時間が楽しい。酸味が好きな日もあれば、しっかりと苦味を感じたい日もある。季節やその日の気分、これから飲むシチュエーションによって選ぶ豆が変わる。今日は、なんとなくカフェオレを飲みたい気分だったので、深煎りの豆を選ぶことにした。

豆を選ぶと、店主がその場で焙煎してくれる。焙煎機が動き始めると、部屋中にさらに香ばしい匂いが広がり、思わず深呼吸したくなる。この時間がたまらなく好き。焙煎が終わるまでの数分間、店主が「おすすめのコーヒー淹れますね」と言って、試飲用のコーヒーを出してくれた。今日は少し軽やかな浅煎りのコーヒー。普段はあまり選ばないタイプだが、口に含むと、驚くほどすっきりとしていて、香りが爽やかだった。

コーヒーを片手に、店主と他愛もない話をする。「最近新しいパン屋さんができたんですよ」「今度行ってみますね」と、そんな日常の情報交換が楽しい。この店に来ると、ただコーヒーを買うだけではなく、いつの間にか「最近どうですか?」という会話が始まる。そして私自身も、ふとした日常の出来事を話したくなる。まるで古くからの知人のような、そんな距離感が心地よい。

焙煎が終わった豆は、手のひらほどの小さな袋に詰められる。まだほのかに温かいその袋を持つと、自然と笑みがこぼれる。こういう瞬間に、日常の中の「小さな幸せ」を感じる。

家に帰ると、待ちに待ったコーヒーの時間だ。今夜はミルクをたっぷりと入れたカフェオレが飲みたい。深煎りの豆を挽いてお湯を落とすと、部屋中に広がるコーヒーの香り。それだけで心が落ち着く。温めたミルクを加え、最後に蜂蜜をふたさじ。蜂蜜の優しい甘さが、深煎りコーヒーの香ばしさと相まって、なんとも言えない味わいになる。

夜の静かな時間、カップを両手で包みながら一口飲む。甘さと香りがふわりと広がり、自然と目を閉じてしまう。忙しい日々の中で、こうして好きなコーヒーを丁寧に淹れて飲む時間は、私にとっての大切な「余白」だ。コーヒーを飲む行為そのものよりも、その過程や空間、香り、温度――そういったものすべてが、私をほっとさせてくれる。

日常の中にある小さな幸せは、案外近くにあるものだ。近所のコーヒー豆屋さんで豆を選ぶ時間、店主とのささやかな会話、そして自分のために淹れる一杯のコーヒー。それだけで、心が満たされていく。何か大きな出来事がなくても、こういう時間が積み重なって、毎日が少しずつ豊かになっていくのだろう。

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