![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159364157/rectangle_large_type_2_aed002702aaa0f8219b7a6d518c43b9d.png?width=1200)
変化と変容
ふと鏡を見ると万年中年メタボ手前くらいだった体型が変化しているのに気がついた。脇腹はややたるんではいるが全体的に横幅が縮小して筋肉が付いている。ここ数週間年相応でないハードな日々が続いているが、いきなり5、60キロはありそうなものを持ち上げたり怒鳴られ脅され急かされながら冷汗をかいて奮闘する毎日を送っているせいだろうか。
奴に怒鳴られてもそれ程応えなくなって来た。一挙一動に文句付けなきゃ気が済まない神経症的な鴉男のいなし方も分かって来た様だ。こいつは言いたい様に言わせておけば気が済むと分かって来たからか、全く何も出来なかった自分が今は8割の運転と半分の仕事は出来る様になって来たからか奴の怒鳴りも以前より回数が減って来た。
龍をバックさせてヤードに入れるがタイミングや読みを間違えると普通の車と違ってとんでもない方向に行ってしまう。今まで何回も失敗しては奴に怒鳴られ交代させられる度に悔しさが滲んだが初めて成功すると心中でガッツポーズする。しかし翌日には昨日は入ったのにまたタイミングを間違えて失敗したりの繰り返しだ。
最近Netflixで公開された機動戦士ガンダム復讐のレクイエムを見たがザクを龍で運んでいるのを見て最初の憧れはこれが最初だったのかも知れないとふと思った。勿論当時の私は将来これを運転するなど全く考えもしなかった。自分はファーストガンダムの世代だから印象に残っているのはグフとザクを龍で運ぶランバ・ラルの一行とアムロの出会うあのシーンである。約60トンのザクやグフを運ぶには自分が乗ってる龍の約倍の積載量とパワーが必要になるが架空の世界ながらあんな重量でハンドル切れるのか心配になって来る。戦争に使う道具だから傷が付いたとか、ぶつけてどうこうとか何言ってんだ?って感じだろう。横幅も2.5メートルでは効かないだろうから電柱薙ぎ倒しながら走行するのだろうか…?とか色々妄想した。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159368285/picture_pc_280b5efa5ca67d0d58f5d1ab331e03de.png)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159376297/picture_pc_de75152e1f632eb2c3032a8494ffd9e7.png)
最近になって何故か同僚の人が何人か声を掛けてくれる様になった。入って1ヶ月くらいでは(石コロ)扱いだったのだが、振るいにかけられて脱落する期間はある程度超えたと言う事だろうか。その中でやや一匹狼感の強い人を寄せ付けないオーラを放ち仕事が速く龍の操作がとても上手い人に先日話しかけられた。
「……どう? 慣れた?」
…毎日手一杯ですね。
「もうあいつよりは上手くなったでしょ。」
え? いやいやとんでもないです。遠く及びませんよ。
「すぐ追いつくよ。◯◯年乗ってアレなんだから。」
それは何だか予想外のコメントだった。鴉は同僚とつるむタイプの人間だがさっきの人はとてもそう見えない。鴉は自分のやり方や価値観の押し付けが激しく、それを踏襲しないと不機嫌になって怒り始める。その大半は自分からすると取るに足らない事柄ばかりだ。しかし私が共感し易いのは恐らくさっきの人の方である。私も人間関係は拡大傾向に無いので人付き合いには消極的である。鴉は窓に埃が付いたら神経質に拭き取るがさっきの人は「は?何それ?」と言いそうだ。
ある国でルームシェアしていたババァが自分は破産してもう部屋代が払えないから自分の分も払う様に脅しをかけて来た翌日奴の留守を見計らって荷物を車に運んで脱出の準備をしていたら帰宅して来た奴と鉢合わせしてしまい車に飛び乗って逃げた。
ある国で夜居間で寛いでいたら上半身裸で胸から血を流した男が裏口のドアを壊して入って来た。
ある国でトレッキングの最中明らかに道を間違えていたが、どう見ても他に道が無さそうなので何とか超えられそうな崖下に自分のバックパックを投げ落としつつ恐る恐る自分もそこにジャンプする。
ある国でビザの延長を断られて滞在期限が過ぎたまま別の街の警察署に出頭してそこの署長にビザの延長を懇願して泣きついた。
etc …
もう昔話になったけど、自分が経験して来たそれらの記憶が何故か蘇る。鼻くそみたいな傷が付いたとか窓に埃が付いたとかそんな小さなアリンコみたいな事柄を気にする価値観を持ち合わせていない。あの時の自分の取った行動はベストでは無いにせよ少なくとも私は生き残って来た。下手すればあの時もっと酷い目に遭っていたかも知れないのだから。
出口はまだはっきりは見えないが鴉との別れは近い気がしている。彼はパワハラ傾向にはあるものの、決して暴力に訴える事は無くなんだかんだこちらのミスをいつもカバーしてくれる。しかしこれ以上彼の叱咤を過剰に受けて仕事を見学しても実質自分が体感して染み付いた学びや経験にはなりそうも無い。本当にスキルが上がって行くのは彼がいなくなって一人になってからだろうと期待と覚悟と不安が入り混じる秋である。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159375991/picture_pc_fb5b68faf85fe6ee050f9d014cd141eb.png?width=1200)